伊坂幸太郎 15


モダンタイムス


2008/11/03

 伊坂幸太郎作品として最長の本作は、漫画誌の週刊「モーニング」で連載されていた異例の作品だ。せっかくなので、「モーニング」連載時の挿絵も完全収録した、通常版より約1000円高い特別版を買ってみたが、持ち運ぶには大変不便なこの厚さ。

 本作は、前作『ゴールデンスランバー』と並行して書かれたという。あとがきで伊坂さんが言う通り、『ゴールデンスランバー』との類似点が多い。一つ挙げると、テーマが「監視」であること。前作の物理的監視に対し、本作ではネット上の監視が描かれる。

 また、本作は『魔王』の続編でもある。時代は徴兵制が敷かれた近未来。宮沢賢治の詩を好む犬養舜二や、世間に抗った兄弟。彼らは名前しか登場しないが、本作でも、一介のシステムエンジニアにすぎない渡辺拓海が、世間というシステムに戦いを挑む。

 先輩社員五反田正臣の失踪。性犯罪者にでっち上げられる後輩大石倉之助。拓海の周囲で続発する変事。彼らが業務委託先のシステムを調べていくと、あるキーワードが浮かび上がる。特定のキーワードの組み合わせでネット検索をすると、何かが起きるらしい。

 ちょっと調べものをするときには「ググる」時代である。CMの最後には検索キーワードが添えられる。このような監視が行われていてもおかしくはない。監視をするのは誰か。権力者か。何のための監視か。国家のためか。そして何を隠しているのか?

 ある事件について調べる中で、重要人物に会うため岩手高原へ向かう拓海。あっさり会ってくれる関係者。それというのも…。仲間の危機に東京に飛んで帰った拓海は、あの事件で英雄となった議員の永嶋丈に直撃することを決意する。拓海たちがどうやって窮地を脱したかは、『魔王』を読んでいないとわかりにくい。いよいよ敵の本丸へ…。

 こういうシステムなのだから仕方ない。与えられた仕事をしているに過ぎない。そんな諦観とのせめぎ合いに揺れる登場人物たち。喜劇王チャップリンの『モダン・タイムス』のように笑い飛ばしているわけでもなく、この長さの割には消化不良に終わっているというのが正直な感想だ。『ゴールデンスランバー』になかったものが『モダンタイムス』にはあると伊坂さんは言う。少なくとも、『ゴールデンスランバー』ほど胸を打つことはない。

 見て見ぬふりをするか、立ち向かうか。『魔王』の刊行は小泉自民党の大勝後。本作刊行は衆院解散間際。これは単なる偶然か。消化不良の決着は読者に委ねられた?



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