伊坂幸太郎 25


残り全部バケーション


2012/12/11

 伊坂幸太郎さんの新刊は、『グラスホッパー』、『マリアビートル』に続く悪玉小説か。悪玉としてはかなり小粒だが…。

 全5編、裏稼業を請け負う「溝口」とパートナーの「誰か」が登場する。恐ろしいボス「毒島」に仕える溝口という男は、その筋の者らしい剣呑さが文章からも伝わってくるのだが、どこか抜けているというか、思考回路が独特なのである。

 いかにも伊坂作品の登場人物らしい溝口。僕が思うに、パートナーの役目は溝口のお守りである。単独行動させたら何をしでかすかわからない。パートナーは1人ではなく、章によって変わる。中にはあまりに頼りなくてお守りになっていない者も…。

 語り部は溝口ではなく、パートナーか、あるいは巻き込まれた不運な一般人。常に第三者の視点で描かれるため、溝口という悪玉の奇妙さが際立つ。極悪非道ではないが情に厚いわけでもない。冗談が通じないようでユーモアはありそう。

 そんなわけで、第1章から第4章までは、お約束のユーモラスでテンポのいい会話の応酬である。伊坂作品の王道であり、それ以上でもそれ以下でもない。新スタイルの試行錯誤は完全に放棄したのだろうか。印象に残るのは第4章くらいである。ある社会問題を解決する手段の馬鹿馬鹿しさが素敵だ。こういうパターンで統一すればよかったのに。

 実は、第4章までは溝口の影は薄い。ところが、最後の第5章では、一気に存在感が上がるのだ。具体的には書けないが、早い段階で気づく人は気づくだろう。第5章のみ書き下ろしだが、当初から予定していた結末なのか、書く時点で思いついたのか。

 伊坂作品には珍しい結末は、映画的かつ効果的だが、『マリアビートル』ほど爽快感はないし、『グラスホッパー』ほど不気味な余韻はない。とはいえ、このくらいライトであまりガツガツしない方が、読者受けはいいのかなあ。

 僕自身、ほらほら面白いだろ感動するだろというガツガツした作品は苦手だが、本作はもう少しガツガツしていてもいいかなと思う。一読者の勝手な言い分である。



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