石持浅海 08


人柱はミイラと出会う


2007/05/31

 石持浅海といえば「クローズドサークル」である。出世作となった『扉は閉ざされたまま』を始め、閉じた状況を作り出すことにこだわってきた。昨年刊行された『顔のない敵』もまた、対人地雷除去に取り組むNPOを閉じた世界と解釈することができる。

 作家としてこだわりを持つのは悪いことではないが、「クローズドサークル」に持ち込もうとするあまり、不自然さが拭えないことが多々あった。突っ込み甲斐があるのが魅力であるとも言えるが。こうした石持作品の特徴を踏まえると、最新刊は実に意義深い。

 交換留学生のリリー・メイスが目にした、日本の不思議な風習の数々。建築物を造る際には安全を祈願して「人柱」を閉じ込める。政治家を「黒衣」がサポートする。既婚女性は「お歯黒」をする。「厄年」は休暇をとる。警察犬ならぬ警察「鷹」が活躍する。嫌なものを見たら「ミョウガ」を食べる。知事は「参勤交代」で奇数月を東京で過ごす…。

 という「パラレルワールド」の設定はともかく、収録された作品群がいずれもクローズドサークルを形成していない点が重要である。石持さんが脱却を意図したのかはわからない。クローズドサークルへのこだわりを捨て去る必要もまったくない。一つ言えるのは、この作品集が石持流本格の進化を予感させることだ。

 探偵役を務めるのは人柱職人の東郷。人柱の何たるかは最初の表題作「人柱はミイラと出会う」を参照願いたい。どの作品も奇妙な風習が事件の鍵を握っており、単なるおふざけに留まっていない。本格としては発想が飛躍気味であり、特に後半の3編「鷹」「ミョウガ」「参勤交代」は推理というより洞察だが、それもまたご愛嬌。

 ただし、この設定には偉大な先例がある。山口雅也著『日本殺人事件』。山口さんが描く日本は、侍がいて遊郭がある。作品世界はぶっ飛んでいると同時に緻密。比較するのは酷かもしれないが、本作には遠慮を感じるかな。もっと遊んでもいい。

 人類は生まれたときはすべて女性、のちに一部が男性に転換するという世界を舞台にしたという『BG、あるいは死せるカイニス』が気になるなあ。



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