石持浅海 11 | ||
温かな手 |
今年4冊目となる連作短編集である。『人柱はミイラと出会う』、『Rのつく月には気をつけよう』、『心臓と左手』とそれぞれ趣向を凝らしてきたが、今回の趣向は…。
何と探偵役が人間ではない。人間ではない生命体なのである。これ以上説明しようがない。幽霊や死体が探偵役という例なら知っているが…。トンデモな設定とは対照的に、内容的にはヘビーなものが多い。最初から殺人事件である。
「白衣の意匠」は、理系出身で大学の研究室に籍を置いていた身としては考えさせられる点が多い。現実に、こういう事例はしばしばニュースになる。で、追い討ちをかけるように「陰樹の森で」愛憎絡みの事件が。文面から異臭がしそう…。
「酬い」におけるあまりにも身勝手な理屈。釈然としないが、こんな事件が決して非現実的とは思えない昨今。「大地を歩む」におけるマイル獲得へのあくなき執念。そうまでしてマイルを貯めたいのか? ちなみにマイルには期限があったと思うが。
殺人事件が続いた後は、ハートウォーミングな「お嬢さんをください事件」をどうぞ。人間以上に人間の心の機微を理解するとは。「子豚を連れて」どこへ行く。深読みはいくらでもできる。人間以上に人間の心の深淵を理解するとは。
相変わらず本格としてよく練られている(推理というより発想が飛躍する方向に進んでいる気がしないでもないが…)。だがしかし、これらの作品群の探偵役が、謎の生命体である必然性はどこにあるのだ? 探偵役以外にこれといった特徴がないだけに。
というのが、最後の表題作「温かな手」を読む前の感想なのだが、一応「彼ら」の生態が少しは明らかになったか? 本格であると同時に、シリーズを締めくくるなかなかに心憎い一編ではある。しかし、全体的な印象は正直微妙かなあ…。
〇〇〇゛がキーワードなご時勢ですから、「彼ら」が実在したら引っ張りだこに違いない。でも、あなたに資格はある? 僕は…自信がないな。