石持浅海 25


彼女が追ってくる


2011/10/31

 『扉は閉ざされたまま』『君の望む死に方』に続く碓氷優佳シリーズの第3弾だそうである。そうか、このシリーズは碓氷優佳シリーズなのか。

 旧知の経営者らが集まる「箱根会」の夜。中条夏子は、かつての同僚である黒羽姫乃を刺殺した。愛した男の命を奪った女の抹殺は、正当な行為だと信じて。完璧な証拠隠滅。夏子には捜査から逃れられる自信があった。しかし、そこには碓氷優佳がいた…。

 すっかり恒例となった倒叙的設定。このシリーズを真に楽しむためには、どうしてわざわざ内部犯が疑われる状況で…という本格全般に共通の突っ込みはご法度である。読みどころは明快だ。真犯人がどこでボロを出し、優佳がいかに崩していくか。

 今回はややひねっている。姫乃の死体発見後、調べてみると夏子ではない人物に疑いの目が向けられる。直ちに警察に通報しようとする面々に、「容疑者」の母が抵抗した。その結果、通報まで一定時間を猶予し、その間に検証することになる。

 通報を遅らせることは気にしない気にしない。ポイントは、夏子の想定外の事態が発生したこと。もちろん、夏子はそんな工作をした覚えはない。通報までにその意図を探らなければ。夏子がそう考えるずっと前から、夏子の負けは決まっていたのだが。

 優佳も嫌らしい探偵役として貫禄が出てきた。夏子じゃなくてもこりゃむかつくよなあ。見下されているのがありありとわかる。優佳が聞いた瞬間に気づいたという嘘。男性にはわからないでしょうね、と優佳は言う。実際、僕にはピンとこない。しかし、逮捕できるほど強い根拠とも思えない。夏子はまんまと鎌をかけられた。

 夏子にとって本当に屈辱なのは、犯行がばれたことより心理を見透かされたことだろう。土足で踏みにじられた夏子の自尊心…。200pに満たない長さで、この心理戦の濃さはさすが石持浅海。見方によってはシリーズ最高傑作と言ってもいいかもしれない。

 この結末までも、優佳は見抜いていた気がしてならない…。



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