石持浅海 12


君の望む死に方


2008/03/22

 石持浅海さんの新刊は久しぶりの長編である。本作は『扉は閉ざされたまま』の続編に当たるが、碓氷優佳が再登場する以外に繋がりはほとんどない。

 ソル電機の創業社長である日向貞則は、熱海の保養所に4人の若手社員を召集した。この「幹部候補研修」の裏には、余命幾ばくもない日向の意図が隠されていた。それは、召集した社員の一人、梶間晴征に自分を殺させること。彼には自分を殺す動機がある。しかし、ゲストとして呼んだ一人の女性によって、計画は齟齬をきたしはじめた…。

 という、今回も倒叙物的な設定。日向と梶間、それぞれの計画が読者には最初からわかっている。前作では、「扉は閉ざされたまま」推理を展開するという趣向が読みどころの一つだった。今回の趣向は…書くに書けない。やはりひねっているとだけ書いておく。

 ただし、構成の妙を優先させたためか、本格としてはパンチに欠ける。創業社長の日向も、技術部門のホープ梶間も、相当の切れ者と察せられるが、犯罪については素人。偽装工作はかなり稚拙だ。もちろん、メタ視点の読者だから言えることだし、実際その場に自分がいても気づかないだろう。それでも「知恵比べ」としては物足りない。

 むしろ興味深いのは、梶間を含む4人の若手社員の人間模様だろう。所属部署がばらばらで、それぞれに上昇志向もある「幹部候補生」4人が、いかに社長にアピールするか。4人の振舞いは、日向が呼んだ3人のゲスト、甥の安東章吾、その婚約者の国枝真里子、そして優佳にしっかりチェックされている。4人だけではなく、日向自身もだ。

 石持作品には、『Rのつく月には気をつけよう』の長江や『月の扉』『心臓と左手』の座間味くんなど、やたらと鋭い探偵役が多い。探偵役が鋭いのは当たり前といえば当たり前だが、中でも優佳は特別だったわけである。だからこそ、対等とまではいかなくても、もう少し張り合ってほしかったかな。最も盛り上がるのが「解決編」ではないのは寂しい。

 なお、『扉は閉ざされたまま』と本作はWOWOWにてドラマ化され、今月29日と30日の21時から連続放映される。映像でどう表現するのか注目したい。



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