石持浅海 26

玩具店の英雄

座間味くんの推理

2012/04/23

 『月の扉』『心臓と左手』に続き、座間味くんが3度目の登場である。今回は、前作までのレギュラーメンバーである座間味くん、警視庁警備部の大迫警視に、新メンバーとして科学警察研究所に勤務する津久井操が加わった。

 彼女の研究テーマを簡単に述べると、事件の発生を防ぐこと。多くの成功事例と失敗事例を分析して、成功と失敗の分かれ目を標準化する。とはいえ、どこから手をつけていいのか途方に暮れていた。とりあえず、事件の記録を読み込んでいるのだが…。

 基本パターンは前作と同じ。操が研究の過程で調べた事例を、座間味くんに披露する。もちろんとっくに決着した事件である。ところが、座間味くんには事件のまったく違う姿が見えていた。しかも、警察の立場からすれば耳が痛い真相ばかり。

 「傘の花」。いわゆるSPが警護に失敗したというだけでも民間人には話したくないだろうが、失敗はまだあったとは…。「最強の盾」。警察の職務にスタンドプレーは禁物だとされるが、座間味くんが非難したのは…。十把一絡げに断じるのはどうかと思うが。

 「襲撃の準備」。スポーツ強豪校の不祥事は時々聞くが、ここまでは…。いずれにしても、警察の失態に変わりはない。「玩具店の英雄」。警察官が民間人に救われてしまった。うーむ、危険性を考えると割に合わない気が…。

 「住宅街の迷惑」は確かに迷惑。「警察官の選択」。このシチュエーションもすごいが、親身になって話を聞いた結果がこれ? 「警察の幸運」。厳しくなる一方の飛行機の手荷物検査に対し、ほぼフリーパスな鉄道。利便性が損なわれないことを願いたい。

 操は座間味くんに圧倒され、自分の未熟さを恥じるのだが、座間味くんを基準にしちゃうと大抵の人が未熟者になるだろう。前作同様、彼の話は想像の域を出ない。今回の方が、無理があるネタが多い。でもね、無理があるところが石持作品の持ち味なのさ。



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