加納朋子 01


ななつのこ


2001/07/15

 加納朋子さんのデビュー作である本作『ななつのこ』と、次作『魔法飛行』は刊行順に読もう。逆に読んでしまった僕の経験上、是非そう言っておきたい。

 主人公の入江駒子は、表紙に惹かれて購入した『ななつのこ』の作者である佐伯綾乃にファンレターを書こうと思い立つ。こうして、手紙の往復が始まった。駒子が手紙に綴った小さな事件は、いずれも佐伯綾乃作『ななつのこ』の収録作品を連想させるものであり、しかも作家本人からの返事には事件の解決が示されていた。

 あまりにも安易であるのは重々承知だが、同じく「日常の謎」を描いた作品として北村薫さんの「円紫師匠と私」シリーズが思い浮かぶ。駒子と「私」、佐伯綾乃と円紫師匠の役回りは似ているかもしれない。しかし、それぞれの良さがあるし、本作は本作だ。

 「スイカジュースの涙」は、その後無事に済んだのだろうか。「モヤイの鼠」は…芸術は難しい。「一枚の写真」を読んで思う、デジカメで撮った「一つのファイル」じゃ味気ない。「バス・ストップで」のささやかな抵抗を、あなたは無意味だと思うだろうか。

 「一万二千年後のヴェガ」なんて愉快な話じゃないか。「白いタンポポ」に、共通の価値観を強制する現代教育の歪みを感じる。最後の「ななつのこ」で、本作が連作長編であること、そしてこの作品を最後に配置した意味が明らかになる。

 佐伯綾乃は発表する当てもなく『ななつのこ』を書いた。そしてまた、加納さんご自身も発表する当てもなく『ななつのこ』を書いたのだという。そんな本作が、鮎川哲也賞受賞作として世に出ることになった。

 『ガラスの麒麟』でも思ったのだが、佐伯綾乃作『ななつのこ』の完全版は存在しないのだろうか。売上げは期待できないだろう。だからこそ、現代社会にはこういう作品が必要だ。加納朋子作『ななつのこ』を読み終えて、心から思う。僕の拙文では魅力のすべてを伝えられない、ほっとする作品集だ。



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