北村 薫 01


空飛ぶ馬


2009/08/11

 北村薫さんの『鷺の雪』が第141回直木賞を受賞したことに敬意を表し、感想を書いていなかった本作を再読してみることにした。

 北村さんのデビュー作にして、僕が苦手な苦手な「円紫師匠と私」シリーズの第1作。シリーズの中では比較的読みやすかったはず…なのだが、甘かった。再読を始めてすぐに、僕の記憶のいいかげんさを思い知ったのだった。

 「織部の霊」。幼い頃悩まされた、夢の正体とは? 円紫師匠と私が出会うきっかけを描いているため、やや前置きが長いが、謎解きとしては興味深い。本の扱い方は人それぞれだが、僕なら字一つ、線一本引けない。「砂糖合戦」。昨今の嫌なニュースの数々を聞くにつけ、この程度の復讐ならかわいいもんだと思ってしまう…。

 ここまではまあいい。本番はここからだ。「胡桃の中の鳥」。「私」の友人の正ちゃんと江美ちゃんが初登場。しかし、全体の9割9分くらいは女子大生3人の旅日記(文学談義付き)である。このまま終わるのかと思ったら、最後の最後にとんでもない事件が…。

 有名童話の新バージョンか、「赤頭巾」。このバージョンの絵本、汚れちまった僕は読んでみたいぞ。街ですれ違うカップルが美しく思えないという、恋愛に対して悲観的な「私」。曰く、抑制がなくてぎらぎらしている。そんな「私」には耐えがたい話だし、酷な結末に違いない。しかし、こんな話は掃いて捨てるほどあるだろうに…。

 そして、最後の表題作「空飛ぶ馬」は、「赤頭巾」とは打って変わり、心温まる話。「私」の誕生日はクリスマス・イブだ。メリー・クリスマスな憎い気遣い。円紫師匠は言う。「人間というのも捨てたものじゃないでしょう」と。そ、そうっすね…。

 全体としては、文学談義8割、謎の部分が2割か。改めて、汚れを知らない「私」と円紫師匠の人格者ぶりに気圧されたのだった。北村先生、すみません。やっぱりこのシリーズは苦手です。『夜の蝉』が第1作だったら、続編を読まなかっただろう。



北村薫著作リストに戻る