北村 薫 04


覆面作家は二人いる


2000/11/18

 本作は「覆面作家」シリーズの第一作である。意見が割れるところだろうが、僕個人は「円紫師匠と私」シリーズよりもすんなりと入り込めたし、ずっと好きだ。

 主人公である新妻千秋嬢は、作中の描写を拝借すると「天国的な」美貌を持ち、世田谷の豪邸にお住まいの御令嬢なのだが、ただの清楚な御令嬢ではない。彼女には、もう一つの隠された顔がある。要するに探偵役なのだが、読んでのお楽しみということで詳しくは触れずにおこう。

 オープニングを飾る「覆面作家のクリスマス」は、主要な登場人物の紹介も兼ねている。作家志望の千秋嬢に振り回される、編集者の良介。その兄で、警視庁刑事の優介。内容的には色々と考えさせられる。才能のあるなしって何なのか? 好きだからという理由じゃだめなのか?

 「眠る覆面作家」。良介と瓜二つの優介が絡んだばっかりに話がこじれてしまうところが面白い。優介はある事件の張り込みの最中だった。事件の犯人をたしなめる千秋嬢の言葉が、わかりやすいだけに印象深い。全体的にコミカルながら、締めるところはしっかり締めている。オチもうまいね。

 「覆面作家は二人いる」。これはテーマが身近である。大きなCD店は防犯対策に苦慮しているそうだ。例えば、会計が済んでいないCDを持ち出そうとするとブザーが鳴るようにしている。ところが、あの手この手を考える輩がいる、という話である。千秋嬢が明らかにした手口には、呆れると同時に感心してしまった。

 この後、シリーズは『覆面作家の愛の歌』、『覆面作家の夢の家』と続く。いずれも手頃な長さながら、読み応えは十分。リラックスして楽しみたい。



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