北村 薫 18 | ||
リセット |
『スキップ』、『ターン』に続く、「時と人」三部作の完結編がついに刊行された。前作『ターン』からは3年半ぶりになる。ファンにとっては待望久しい新刊だろう。
無理にひねりを効かせたと言えなくもない過去の二作と比較すれば、至ってストレートな恋愛小説である。もちろんひねってはいるが、決して目新しくはない。また、過去の二作は現在進行形の物語だったが、本作はいわば回顧録である。
第一部は女性の独白。彼女の戦時中の体験談が延々と続く。ただし、この時代としては裕福な家庭に育ったらしく、悲惨な描写はあまりない。あくまで恋愛小説なのだから。何だか「円紫師匠と私」シリーズを読んでいるようだったが、恋愛などもってのほかという時代背景を考えれば、こういうものか。
第二部は男性の独白。彼の少年時代が語られる。第一部との繋がりは読んでいるうちにはっきりわかる。伏線を張るだの、叙述トリックを施すだのといった面倒なことは一切なし。隠すことなど何もないのだ。そもそも意外性のない、ストレートな物語なのだから。BGMには井上陽水の「少年時代」が打ってつけか。最後を除けばだが…。
退屈な人にはひたすら退屈な作品かもしれない。回顧録という形式上、どうしても起伏には欠ける。そんな中、第二部の結末だけは読めなかったが、賛否両論ではなかろうか。物語を盛り上げる趣向であるのは理解できるが、第一部、第二部の整合をとるなら、他にも方法があったのでは。
そして、お約束通りの第三部…と、かなり論調が批判めいてしまったが、決してつまらなくはないし、読ませる作品だと思っている。北村さんのルーツを感じさせる、間違いなく北村印の作品だ。ただ、僕の感性には合致しなかった。それだけのことである。
正面切って本作のような作品を書ける作家は、なかなかいない。芯の通った予定調和とでも言おうか。作風とは裏腹に、ここに強固な作家哲学が貫かれている。