北山猛邦 02


『瑠璃城』殺人事件


2007/02/19

 最新刊『少年検閲官』を読み終えて、個人的に北山猛邦ブームが到来している今日この頃、感想を書いていない『『瑠璃城』殺人事件』を再読しようと思い立った。

 結論から言うと、再読したところで感想が変わるはずもなく、最初に読んだとき同様にやはり「いまいち」だったわけだが…。メフィスト賞受賞後第1作ということで、プレッシャーもあったとは思うが、これでメフィスト賞に応募しても受賞できなかっただろう。

 1989年日本。密室と化した図書館内で女性が短剣で貫かれる。1243年フランス。瑠璃城から六人の男が消失し、たどり着けるはずのない湖で首なし死体で発見される。1916年、第一次大戦のドイツ×フランス前線。人の出入りがない状況で四体の死体が消える。

 舞台が3つの時代に分かれるが、それらが「生まれ変わり」という概念で結ばれるという趣向である。ところが、各時代のメインのトリックはいずれも小粒。特に瑠璃城の消失トリックは見え見え。そもそも禁じ手に思える「生まれ変わり」という概念を利用したトリックもぱっとしない。せっかくの舞台設定と趣向が活かされているとは言い難い。

 デビュー作『『クロック城』殺人事件』は、トリックだけでその他の弱さをカバーできていたと思う。だから本作もトリックだけで評価してしまった感はある。ネット上では『クロック城』にも厳しい声が多い。いわんや『瑠璃城』をや、である。僕もしばらく見限っていたのだ。

 今は、新人を長い目で見ることも必要なのだなと思っている。講談社の商法には正直気に入らないことが多々あるのだが、多少拙くても若手にチャンスを与え、長期的に育成している点は評価しなければならない。メフィスト賞出身作家は他社に狙われやすい。

 本作を強く薦めることはできないが、ボツにされていたら『少年検閲官』が生まれることはなかっただろう。そう考えれば本作にも意味があるというもの。講談社の先見の明には感謝したい。『城』シリーズと『少年検閲官』の続編を楽しみに待とう。



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