北山猛邦 04


『アリス・ミラー城』殺人事件


2005/03/27

 トリックだけでなく内容にも深みを持たせていかないと、今後は苦しいだろうと思う―と僕は『『ギロチン城』殺人事件』の感想に書いた。

 本作『『アリス・ミラー城』殺人事件』を読み終えて、これは早とちりだったかもしれないと思った。物理トリックが北山作品の重要な位置を占めるのは確かだが、なかなかどうして演出だって堂に入ったものではないか。

 ルイス・キャロルの作品に因んだ不可解な城『アリス・ミラー城』に集められた、8人の探偵。最後まで生き残った者のみが、『アリス・ミラー』を手に入れられるという。一人また一人と殺害されていく探偵たち。そして、チェス盤から駒が一つずつ消えていく…。はい、本格大好きなあなた、もうわかりましたね。これは古典作品で知られたあのパターンですね。

 作中、探偵たちはミステリ談義に興じる。曰く、物理トリックに必然性はあるのか? 曰く、密室に何の価値がある? 本格ミステリの登場人物がこんなことを言っては身も蓋もない気がしないでもないが、このシニカルさは嫌いじゃない。本格のお約束がわかっているから書ける「ネタ」だし、そこには愛を感じる。東野圭吾さんの『名探偵の掟』のように。

 とはいえ、本格ミステリに「出演」している以上、無価値だろうが無意味だろうが彼らは謎に挑まねばならない。この「ジレンマ」が本作のポイント。

 個々の殺害トリックに目を向けると、いくら合理的に説明されても、小粒な上に「取ってつけた」ような印象が拭えない。でも、これもまた本作のポイント。

 支障がない程度に(あるかも)書くと、探偵たちはどうしようもなく探偵だということだ。「真相」と犯行動機の荒唐無稽さは置いておく。どうだ、この後味の悪い結末は。個々のトリックよりは、サスペンス性に注目して読みたい一作だ。



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