北山猛邦 10

猫柳十一弦の後悔

不可能犯罪定数

2011/12/12

 物理トリックの雄・北山猛邦さんの、長編としては約5年ぶりとなる新刊である。前作『私たちが星座を盗んだ理由』では、物理トリックに頼らない多様性を示したが、やはり物理トリックに期待したくなるのが正直なファン心理である。

 大学の探偵助手学部に通う君橋(クンクン)と月々(マモル)。どの探偵のゼミに行きたいか希望を出し、審査の上で配属が決まる。ところが、2人とも適当に書いた第3希望の猫柳ゼミに配属された…。教官が無名の女性探偵になり落胆する中、名門・雪ノ下ゼミとの合同研修が行われることになった。猫柳ゼミ一行は、会場となる孤島の館へ渡る。

 孤島かつ館というあまりにベタな設定に、いやがうえにも期待は高まる。早々に2人が犠牲になった。奇妙な殺害状況、いいじゃなーい。だが、読み進めると…。

 かなり早い段階から、猫柳探偵は法則性を掴んでいた。もう書いてしまうが、これは見立て殺人である。しかし、何の見立てか気づく読者はいるのだろうか? というより、明かされて膝を打つ読者がいるのだろうか? 僕はただポカンとしてしまったよ…。

 トリックの要素がないことはないが、やはりメインは見立てなのだろう。それはいいとして、全体の印象はとても地味なんだよなあ。展開といい、肝心の見立てといい、キャラクターといい…。序盤が派手だっただけに、尻すぼみになった感がある。

 元々、キャラクターを重視しない北山作品とはいえ、殺人を未然に防ごうと体を張る猫柳探偵の押しの弱さが気の毒に思えてくる。ぶっちゃけた話、キャラクターがぶっ飛んでいる方が読者受けはしやすい。安易な方向に決して走らない潔さは、評価したい。

 思えば、前回の長編『少年検閲官』も、トリックより作品世界を重視していた。トリック命の『城』シリーズは、新刊が途絶えて久しい。本作は本作で味があり、決して悪くはないが、最後の砦たる北山猛邦さんには、物理トリックの灯を消さないでほしいのだ。



北山猛邦著作リストに戻る