今野 敏 A-12

花水木

東京湾臨海署安積班

2009/07/06

 現時点の安積班シリーズ最新刊は、やや変則的な内容である。

 全5編中、最初の2編は従来通りの正統的警察小説である。表題作「花水木」は、お台場潮風公園で男性の遺体が発見され、本庁捜査一課の相楽が乗り込んでくる。シリーズ第1作『東京ベイエリア分署』から登場し、安積をライバル視している相楽だが、無用な対立はせず責務を果たす。一見無関係な喧嘩との繋がりなど、ひねりも効いた好編。

 続く「入梅」は、コンビニ強盗事件を些細なヒントから丹念に追っていく過程が面白いが、もう一つの読みどころは、安積が部下の村雨に抱く思いである。刑事としては全幅の信頼を寄せているものの、村雨を苦手にしている安積。僕にも苦手な相手はいるが、僕が一方的に苦手だと思っているだけかもしれない。

 「薔薇の色」は、『神南署安積班』に収録の「刑事部屋の容疑者たち」以来の掌編である。何だか最近の石持浅海さんの短編に近い。僕は仲間に入れないようだ。

 残る2編、「月齢」と「聖夜」は、警察小説として読むとちょっと戸惑う内容である。詳しくは書けないが、事件の内容がなんともはや…。いや、事件と言っていいのだろうか。「月齢」のような通報に対して、大真面目に警察が動くことがあるのだろうか。

 これら2編は、舞台がお台場であることと密接に関係している。安積は常々、自身の管轄である臨海地域を生活感の空虚な街だと言っている。僕は未だに行ったことがないが、安積に言わせれば六本木ヒルズも同じだという。イルミネーションに彩られた、人が通過するだけの街。そんな街ならではの事件(?)なのかもしれない。

 お台場のパレットタウン一帯は、2010年6月に更地にして東京都に返還しなければならないため、閉鎖が迫っているのだとか。最初から10年間の借地契約だったとはいえ、馬鹿げている。この街はどこに向かおうとも、安積班シリーズは続く。



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