京極夏彦 10


巷説百物語


2000/10/26

 もう一つの「妖怪」シリーズとでも言うべきか。本作は、季刊「怪」(角川書店刊)で連載されていた作品に書き下ろし一編を加えた連作短編集である。最初に言ってしまおう。これは絶対に面白い!

 『嗤う伊右衛門』に登場した御行(おんぎょう)の又市を筆頭に、山猫廻しのおぎん、考物(かんがえもの)の百介など、京極堂シリーズに劣らない一癖も二癖もあるキャラクターたち。各編とも、御行の又市たちがターゲットとなる人物の悪事を暴くという内容である。この悪事を暴くための罠が凝りに凝っている。又市の決め台詞がいいね。

「御行、奉為――」(おんぎょう、したてまつる)

 この乗りは、時代劇にたとえれば「必殺」シリーズか…という印象を抱いていたのだが、京極さんの言によればそれは違うらしい。妖怪のしわざであるかのような不可解な謎を現実の論理で解き明かすのが京極堂シリーズなら、妖怪のしわざということにして丸め込んでしまうのが本作である。要するに、京極堂シリーズとはコンセプトが逆とのこと。

 各編とも甲乙つけがたいところだが、書き下ろしで収録された「帷子辻」(かたびらがつじ)が注目される。本文中に出てくる「九相詩絵巻」なる絵巻は、カバーの裏で確認することができる。内容のグロテスクさが、さらに際立つことだろう。カバーをめくって後悔しても、僕は一切責任を負わないのであしからず。しかし、この絵巻、個人蔵だとは…。

 このシリーズは、『続巷説百物語』として連載が継続されている。いずれ単行本化されることだろう。京極堂シリーズはちょっと…という方にも是非お薦め。

 なお、WOWOWのオリジナルドラマ『巷説百物語』の脚本はすべて書き下ろしであり、本作には収録されていない。小説化はしてくれないのかな。



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