京極夏彦 11


百器徒然袋―雨


2000/09/04

 『百鬼夜行―陰』からあまり間を置かずに刊行された本作は、同じく京極堂シリーズ外伝と言うべき3編から成る中編集だ。今回はお馴染みのキャラクターたちがちゃんと登場するが、主役を務めるのはその名も高き薔薇十字探偵、榎木津礼二郎。榎木津ファンには堪らない作品だろう。

 ただでさえ、事件を引っ掻き回しているのか解決に貢献しているのかよくわからない榎木津だが、本作では荒唐無稽ぶりにさらに磨きがかかっている。水を得た魚とはまさにこのこと。豊臣秀吉型の京極堂に対して、織田信長型の榎木津。好対照な両者が絶妙なコンビネーションを見せるところが面白い。

 語り部を務めているのは、最後の一行まで名が明かされないある男。京極堂たちとは縁もゆかりもない。巻頭の「鳴釜」で榎木津に事件解決を依頼した彼だが、その後もなぜだか事件に首をつっこんでしまう。野次馬根性丸出しと言えなくもない彼の存在が、本作のはちゃめちゃぶりを際立たせている。 

 『塗仏の宴』で散々な目に遭った関口君が無事であることが、最後の「山颪(やまおろし)」で確認できる。しかし、冷遇されているのは相変わらず。とほほ…。

 ところで、作中で聞き覚えのない事件に触れている箇所があるが、「ダ・カーポ」1999年12月1日号のインタビューを読んで疑問が解けた。どうやら、シリーズ本編の次回作として予定されている『陰摩羅鬼の瑕(おんもらきのきず)』や、それ以降の作品のことらしい。また、百器徒然袋シリーズは続行し、次は『百器徒然袋―風』と題して3編を執筆する予定だそうである。

 重々しさが漂う本編とは違い、気を楽にして読める作品だが、やはりシリーズを知らないと楽しめないか。『陰摩羅鬼の瑕』は一体いつになったら刊行されるのか…。



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