京極夏彦 09


百鬼夜行―陰


2000/07/03

 『姑獲鳥の夏』から『塗仏の宴』に至る事件の背景に何があったのか? 本作は、京極堂シリーズ外伝とも言うべき短編集だ。「小説現代」での連載開始から4年。ファンにとっては待望の単行本刊行だっただろう。しかし、その性格上、シリーズ全作を読破していない読者にはさっぱり楽しめない作品集である。

 シリーズを彩った様々な事件関係者たちの背景が語られるが、唯一書き下ろしで収録された「川赤子」を除くと、シリーズキャラクターは一切登場しない。また、本編には無関係な人物が登場する作品もあるが、彼らもまた事件関係者であり、妖怪に憑かれたのだ。表には出なかっただけのこと。以下、印象に残った作品に触れておこう。

 第一夜「小袖の手」は、個人的に納得できなかった『絡新婦の理』のある箇所に関する話であり、『魍魎の匣』に絡む話でもある。なるほどねえ。しかし、京極堂がなぜ見抜けたのかは、依然不明。良くも悪くも事件と事件が複雑にリンクし合う、シリーズの特徴を示したような作品だ。

 第八夜「襟立衣」は、これまた納得できなかった『鉄鼠の檻』に関する話である。唯一時代が大正という設定だが、それには理由がある。明慧寺誕生の秘密がわかるかも? うーむ、これは現代にも通じるテーマかもしれない。

 最後の第十夜「川赤子」は、『姑獲鳥の夏』のプロローグに当たる作品だ。『姑獲鳥の夏』の書き出しと同じ「どこまでもだらだらといい加減な傾斜で続いている長い坂道を登り詰めたところが――目指す京極堂である」で終わっている。そう、すべてはここから始まった。関口君の原点、ここにあり?

 こうした作品集はある意味では蛇足かもしれないが、ファンサービスということで。巷に溢れる解説本の数々を読むよりはるかに有意義だろう。なお、なぜか『狂骨の夢』に関する話は一編も収録されていない。



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