京極夏彦 20


百器徒然袋―風


2004/07/19

 冷夏だった昨夏はシリーズ最新作『陰摩羅鬼の瑕』が刊行されたが、猛暑の今夏は全国の榎木津フリーク待望の『百器徒然袋―雨』の続編が到着した。今回は『風』編である。

 前回からの流れを引き継いでいるが、本作では前作の最後に姓が明かされた青年が、より事件に深入りしてしまう。前作ではあくまで野次馬だったのに、彼自身にも災厄が降りかかる。今回出番がない関口君を差し置いて、立派にレギュラーキャラに昇格である。それが彼にとって幸か不幸かはともかく…ああ関口君よ。

 さらに、おちゃらけ路線を通り越してすっかりおばか路線に走ってしまっているが、もしも現時点で『陰摩羅鬼の瑕』が刊行されていなかったらふざけんなと思っただろうなあ。幸い刊行されていたため、広い心で読めましたとも。講談社のメールマガジンには初めての人でも楽しめると書かれていたが、それは絶対に違うだろう。

 全3編中、最注目は2編目『雲外鏡』だろう。榎木津の探偵生命が、絶体絶命の危機を迎える?! 無謀にも榎木津に勝負を挑んだ霊感探偵の哀れな末路…。この霊感探偵、裏をかいたつもりが詰めが甘すぎた。相手が悪いのは確かだが、敵役として情けないにもほどがある。榎木津の探偵手法を知っていてこそ意味がわかるし楽しめる、一見さんお断りの典型例のような一編。

 クライマックスになるはずの『面霊気』。まず敵が仕掛けた罠がばかばかしい。榎木津という鬼才を理解していない。ようやく重い腰を上げた京極堂だが…超大物のはずの大ボスがこりゃまた情けない。情けないづくしのとほほな内容である。と思うのは読者である僕が傍観者だからであって、哀れな青年にしてみればたまったもんじゃないよなあ。

 榎木津の青年への心遣いを、額面通りに受け取れないと思うのは僕だけではあるまい。青年のその後やいかに。うーむ、榎木津は榎木津なりに苦労しているのかもしれない。



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