京極夏彦 30 | ||
数えずの井戸 |
それは、はかなくも美しい、もうひとつの「皿屋敷」
と帯には書かれている。『嗤う伊右衛門』、『覘き小平次』に続く京極流怪談第三弾。ページ数は大幅にアップした。分厚いのが普通の京極作品とはいえ、ちょっとためらうボリュームである。長丁場を覚悟して手に取る。
嗚呼欠けている欠けている欠けている…常に欠落感に苛まれる直参旗本青山家の当主・青山播磨。嗚呼足りない足りない足りない…奉公する先々で莫迦だ魯鈍だと哂われ、怒られた、数えるのが苦手な菊。嗚呼褒められたい褒められたい褒められたい…それだけが生き甲斐な青山家御側用人・柴田十太夫。
嗚呼何もかも厭だ厭だ厭だ…かつては播磨と共に暴れ回った遠山主膳。ひたすら米を搗いて搗いて搗いて…好きでも嫌いでもなく、それが当たり前だと思う三平。嗚呼欲しい欲しい欲しい…若年寄の座を狙う大久保唯輔の娘・慾には限りがない吉羅。
それぞれ屈折した六人の事情がぐだぐだ語られ、主要人物紹介が一巡したところで200pを超えているが、まだまだ先は長い。既にこの時点でぐったりなのだが…。
以降は基本ローテーションを繰り返しつつ、青山家の家宝の皿を巡って右往左往する。嗚呼皿がない皿がない皿がない…。十太夫の憔悴ぶりがいっそ滑稽でさえある。吉羅との婚儀を控えた当主の播磨は我関せず。やがて、そんな青山家に不穏な空気が。
途中から結末に期待するのはやめていたけども…この長さに付き合わされた身にもなってくれっての。誰にも情が入らないから、もう投げやりな気分で読み終えた。前作『覘き小平次』も個人的には評価が低いが、本作よりまだ読みどころがあった。自分が叱られて丸く収まるならそれでいい、そんな菊の健気さにでも涙すべきだったんだろうか。
それにしても、又市たちはこのシリーズでは何の役にも立っていない…。