万城目 学 05


プリンセス・トヨトミ


2009/03/08

 『鴨川ホルモー』の舞台は京都。『鹿男あをによし』の舞台は奈良。そして本作『プリンセス・トヨトミ』の舞台は大阪。今回はどんなぶっ飛んだ展開を見せてくれるのか?

 本作に描かれるのは、大阪の知られざる歴史だ。太閤豊臣秀吉亡き後、徳川の支配に逆らい、現在に至るまで受け継がれてきた秘密とは。そんな大阪人の拠り所に乗り込むのは、融通が利かない役人中の役人、会計検査院第六局副長松平元(はじめ)。

 いわば大阪対国家という構図である。ここで大阪の秘密を明かすことはもちろんできない。あまりに壮大で馬鹿馬鹿しい、万城目流の設定に期待は膨らんだのだが…。結論から言うと、万城目ワールドの一ファンとしては物足りないと言わざるを得ない。

 「5月末日木曜日、大阪全停止」と帯に書かれている。その内容が、僕の想像とは違っていたせいもあるだろう。それはともかく、クライマックスと言える対決シーンに拍子抜けしてしまったことが一番大きい。これでは情にほだされただけではないか。

 登場人物に目を向けると、感情移入できる人物が誰もいない。松平たち会計検査院の面々は、職務に忠実であろうとしているだけだからまだわかる。しかし、本作の鍵となる大阪の商店街に生まれ育った2人の少年少女は…。いや、2人の少女と言うべきか…。

 その少年、真田大輔は、女の子になりたいという願望をずっと抱えてきた。ある日、ついに決心してセーラー服を着て登校する。しかし、大輔はかなり肉づきがよく、正直セーラー服姿を見せられるのは勘弁してほしい…。大輔の切なる願いが、本作に必須の設定とは思えない。大輔の両親や、幼なじみの少女・茶子は実に懐が深い。

 結局極めて個人的動機だったことが最後に明らかになるが、果たして見た甲斐があっただろうか。茶子の義侠心と大阪の一大事との結びつけ方もやや強引だし、まとめ方も無理矢理っぽい。大輔が果たした役目はあれだけ? 何より、弾けていない。

 なお、性同一性障害の方を差別する意図はないことをお断りしておく。



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