麻耶雄嵩 09 | ||
名探偵 木更津悠也 |
デビュー作『翼ある闇』に登場以来、しばしば麻耶雄嵩作品の中心を担う、探偵木更津悠也とその友人香月実朝のコンビ。その二人が活躍する連作短編集に冠せられたタイトルが、そのままずばり『名探偵 木更津悠也』…。
いわゆるホームズ役とワトスン役のコンビは、ミステリーの黎明期から現在に至るまで数多く生み出された。木更津と香月も表面上はそうしたコンビの一つに思えるが、二人は歪んだ関係にある。その「歪み」が最も顕在化したのが、実は『翼ある闇』だった。もちろん、どう歪んでいるのかをここで述べることはできない。
僕は麻耶雄嵩を語れるほど読み込んではいないし、未読作品も多いが、少なくとも今まで読んだ麻耶作品は読者を選ぶ曲者ばかりであった。一方、文庫化を機に手に取った本作は、意外なまでに「まとも」。一般の読者にも手を出しやすいだろう。
だがしかし、本作が最初に読む麻耶雄嵩作品だとしたら、特に印象も残さず記憶の彼方に埋もれていくだろう。元々木更津は探偵役としてアピールが弱い上に、内容は極めてオーソドックス。最低限『翼ある闇』を読んで木更津と香月の関係を知っていなければ、作中に散りばめられた二人の「歪み」を示す記述に気づけない。
普通の顔の裏に、実は歪んだ顔がある。わかる人にはわかるという、実験的な作品集と言える。わかったところで、ふーん…としか思わないのだが。タイトルに「名探偵」と入れるセンス自体が、本作の最大の歪みかもしれない。
文庫版解説やネット上で指摘されている通り、「木更津に萌える香月」という構図が本作のテーマか。「白い幽霊」というモチーフはこの際どうでもいい。名探偵はかくあるべし。ちなみに解説は最低だ。『翼ある闇』のネタまでばらすとは。最初に読まないように。
それにしても、もう少し伝わってくるものがないとねえ。『翼ある闇』や『木製の王子』は、良くも悪くも読者にアピールはしていたなあ。