麻耶雄嵩 10





2007/05/28

 2005年版『本格ミステリ・ベスト10』第3位。その筋の人には評価が高そうだが。

 本作を読み終えた後、正直どこがすごいのかわからなかった僕は、ネット上をあちこち巡ってみた。麻耶雄嵩さんの作品は、極めてオーソドックスな本格の顔をしていながら、実は従来の概念をくつがえすひねりが加えられている。という理解で正しいのでしょうか。

 大学のオカルトスポット探検サークルの六人は、今年も合宿のため京都府の山間部に佇む「ファイアフライ館」へ向かっていた。そこは十年前、天才音楽家の加賀螢司が演奏家六人を惨殺した現場だが、サークルOBの佐世保が買い取って保存していた。

 第一の殺人の後、降り続く雨は一向に止まず、唯一の橋は流木に塞がれ、電話線は切断され…はい、絵に描いたような「嵐の山荘」パターンですね。「館」と言った方がいいか。この手の作品のお約束として、どうしてわざわざ殺人事件の現場で合宿するんだとか、車が使えないなら這いつくばってでも連絡に行けとか、突っ込んではならない。

 「ファイアフライ館」を探索しているうちに、悪趣味な仕掛けが次から次へと出るわ出るわ…。騙しの罠自体はお馴染みの手であり、この僕でも違和感を感じたくらいだから、ミステリ慣れした読者なら感づくに違いない。他の麻耶作品同様、基本的にはフェアだ。

 しかし、本当の罠は別に仕掛けられていた。探偵役がその一言を述べた瞬間、ぽかんとした。即座に読み返す。……。確かに前例がない試みには違いないが、「前例ない」こと以外に何の意義がある? このネタを使いたいがために、本作は書かれたのか。

 賛否両論と言われる麻耶作品だが、僕は好きですよ。デビュー作『翼ある闇』の感想に書いた通り、もっとぶっ飛んでもいいと思ったくらいであるから、『名探偵 木更津悠也』ほどではないが本作も地味に感じる。近年は大作に走らず、通を唸らせる麻耶雄嵩。おそらく僕には、そんな麻耶作品の本当のすごさがわかっていない。

 エピローグに唖然…。



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