道尾秀介 03


骸の爪


2009/12/11

 デビュー作『背の眼』に続く、真備(まきび)シリーズの第2弾。先にシリーズ第3弾の短編集『花と流れ星』を読んだのだが、本作を読み終えて思った。本作の方を先に読んでいれば、『花と流れ星』に対する見方も変わっていたかもしれない。

 ホラー作家の道尾は、取材のために滋賀県山中にある仏像の工房・瑞祥房を訪ねた。彼はその夜、口を開けて笑う千手観音とこの世のものならぬ声に恐れおののく。翌日には仏師が一人消えていた。さらに、闇の中でシャッターを切った写真には、血を流す仏像が写っていた。20年前に消えたという若き仏師が関係しているのか…。

 騙すことに主眼を置く道尾秀介さんは、正統的な本格からは距離を置いた存在だと認識していた。ところが本作を読んで驚いた。実にかっちりとした、真っ向勝負の本格ではないか。前作『背の眼』がああいう内容だっただけに、意外性は大きい。

 舞台が舞台だけに、今回は仏像や仏教の知識が大きな鍵を握る。しかし、独りよがりな薀蓄の垂れ流しにはなっていない。仏像の工房など行ったことはないが、ポイントを抑えた説明を読むとその場で見学しているかのような臨場感がある。こうしたバランス感覚はさすがだ。『背の眼』ではバランスのよさが引っかかるとか言っていたくせに。

 笑う仏像に血を流す仏像。続発する仏師の失踪。そして20年前の事件。あらゆる事象が繋がり、あらゆる謎が完全に解明され、一切隙はない。そんなところまで説明するとは、痒いところに手が届きすぎだ。この徹底ぶりには唸らされると同時に苦笑した。

 文庫版で約70pを残し、事件は終結したと思ったら、甘かった。ちょっとしたすれ違いが生んだ悲劇的真相。エピローグにしてはやや長い気がしていたのだが…。追い討ちをかけるような執拗さに、本作はやはり道尾作品なのだと思い知らされたのだった。

 このシリーズに思い入れはない。僕は『花と流れ星』の感想にそう書いた。しかし、今では長編第3弾が読みたくなっているのだから、何て現金な読者なんだ。



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