道尾秀介 07


ラットマン


2008/02/25

 道尾秀介さんの最新刊を買ったのは、実は『シャドウ』を読む前である。僕の『シャドウ』に対する評価は今ひとつだったので、「注目を集めてきた新鋭が、ついに到達した最高傑作」という帯の文句に警戒感を抱きながら読み始めた。そして案の定…。

 結成14年のアマチュアロックバンドが、閉鎖が近いスタジオでの練習中に遭遇した不可解な事件。事故か他殺か。絡み合うそれぞれの意図と、メンバーの過去と現在。

 主人公である姫川には、メンバーにも告げていない秘密があった。ううむ、詳しく書けないがまたこの手のネタ? またこの手の犯罪? 序盤から気が滅入る。姫川の生き方に自暴自棄な危うさを感じるだけに、尚更である。ああそして安直な展開…。

 ところがどっこい、これは本格ミステリの定番パターンだ。何か見落としはないか。交錯する焦燥感と疑心暗鬼。ひたひたと迫る捜査の手。そんな中、彼ら「Sundowner」のライブの日が近づいていた。それぞれの思いを抱えながら、いざ開演。

 ライブが終わった後は、怒濤のようなどんでん返しの連続だとだけ書いておこう。これだけどんでん返しが盛り込まれた作品は、山口雅也さんの短編「解決ドミノ倒し」(『ミステリーズ』収録、傑作!)くらいしか思いつかない。凝りすぎの嫌いはあるものの、ここまできれいにまとめる手腕はすごい。完成度も読後感も『シャドウ』よりはるかに上だ。

 現在の事件が解決すると同時に、姫川が長年抱えてきた謎も解決する。最後のページに、最後のどんでん返し。この徹底ぶりには恐れ入る。今まで悩んできたのは何だったんだと思わなくもないが、本作が青春記であり、同時に家族の物語であることを象徴する結末である。彼らにはバンドを続けてほしい。エアロスミスはまだまだ現役なんだ。

 まだ3作目だが、今までに読んだ道尾作品の中では最も満足度が高い。年末ランキングでも上位に食い込むのではないか。ただし、技巧に走りすぎな点は気になる。これほどの構成力と描写力があるのだから、技巧に頼らない作品にも期待したい。本格ミステリというジャンルは、読者をいかに騙すかという技巧の勝負ではあるのだけど。



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