道尾秀介 14


プロムナード


2010/06/04

 『月の恋人 〜Moon Lovers〜』とほぼ同時刊行された、道尾秀介さんの初のエッセイ集である。エッセイ集を手に取るかどうかは気分次第だが、本作を手に取る気になった理由の1つは、道尾さんが17歳のときに描いた自筆絵本が収録されたからである。

 この自筆絵本「緑色のうさぎの話」は、昨年5/23放送のTBS系『王様のブランチ』の中で初公開された。時間の都合上、あまりじっくり見せてくれなかったが、改めて読んでみると、なかなかに考えさせられる。失礼ながら上手とは言えない絵が、むしろ味わい深い。

 そして、19歳のときに書いた戯曲「誰かが出て行く」。短いながらもビターでシニカル。エスプレッソのような1編。結末はどうとでも想像できる。

 さて、あくまで本作のメインはエッセイである。小説からはわからない意外な顔が垣間見えたり、なかなか面白かった。1編1編は簡潔にまとめられており、小説のようなアクもないのですいすいと読み進む。『月の恋人 〜Moon Lovers〜』もアクがなかったが。

 道尾さんの小説への思いを、率直に語っているのが興味深い。1年前に放映された『王様のブランチ』は、第12回大藪春彦賞受賞作『龍神の雨』が刊行された直後で、インタビューからはミステリーに軸足を置いているように感じられた。それから1年後の現在。近作における道尾さんのスタンスの変化が、本作を読むとはっきり綴られている。

 曰く、色眼鏡をかけるのは待ってほしい。単純に自分が読みたいものを書いているだけだ。ミステリーとしてはナニナニの問題点があるが、物語としては面白い。この感想の前半部分は必要なんだろうか。ううむ、身に覚えがあることばかり…。

 ネット上でも、道尾秀介がミステリーから離れつつあるという声はよく聞く。だが、それは読者の勝手な思い込みなのではないか。ただただ自分が読みたいものだけを書く。それによって読者を失っても、スタンスを変えるつもりはない。道尾さんは断言する。

 …といった堅苦しい話ばかりではないので、興味のある方はどうぞ。しかし、近影からは16歳の道尾さんの風貌が想像できない。その風貌で絵本も描いたのか?



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