湊かなえ 03


贖罪


2012/06/22

 デビュー作にして大ベストセラー、本屋大賞にも輝いた『告白』には辛い評価をしたが、続く『少女』には唸らされた。そして本作『贖罪』は…再び辛い評価をせざるを得ない。

 15年前、静かな田舎町で発生した、忌まわしき女児殺害事件。当時、直前まで一緒に遊んでいた4人の女児は、犯人らしき男と言葉を交わしていたにも関わらず、全員が顔を思い出せなかったため、事件は迷宮入りしてしまった。

 犠牲になった女児は、父親の転勤で東京から転校してきたのだった。女児の母親は、東京に戻る直前に4人を呼び出し、償いを迫った。そして事件から15年後、4人がそれぞれに事件後から現在までを語るという趣向である。語り部が変わるのは『告白』と同じ。

 「フランス人形」。そのまんまです。最も事件に怯え続けた彼女。男はそんな彼女を包んでくれるはずだった…。どこかで読んだような設定だが、これだけで長編化もできるだろう。「PTA臨時総会」。そのまんまです。ある事件後のPTA臨時総会で、親たちに爆弾を投げた教師。教師である彼女の演説は、乱暴な中にも本音を感じる。

 以上2編は短編として評価できるが、以降は…。「くまの兄妹」。そのまんま…なんだろうな、この結末だと…。「とつきとおか」。陣痛が始まっている妊婦のところに押しかけるのもどうかと思うが、話す方もやたらと冷静だなあ。最後に、犠牲者の母親が登場する「償い」。うーん…この章はむしろない方が効果的だったのでは。

 それなりに読ませるし、描写も濃いのだが…読み終えてみると、『告白』の焼き直しという感が強い。身も蓋もないことを敢えて言う。ドロドロさせればそれでいいのかと。そりゃね、あんな事件に巻き込まれれば4人とも何らかのトラウマになるだろうさ。愛娘を失えばどこかに怒りをぶつけずにはいられないだろうさ。それにしたって、4人が4人とも…。

 内容以外に気になるのは、『贖罪』というタイトルである。作中の人物たちも、作者の湊かなえさんも、贖罪という言葉を誤用しているような…。贖罪にも償いにもなっていないし。『告白』のような漢字2文字のタイトルにしたかっただけなのかもしれないが。

 『告白』の方が、最後に無茶をやらかした分だけ、まだ読み応えがあったか。



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