宮部みゆき 07


本所深川ふしぎ草紙


2001/04/25

 宮部みゆきさんの時代物作品として最初に刊行された本作は、本所七不思議をテーマに据えた連作短編集である。後に『初ものがたり』の主役を務める回向院(えこういん)の茂七親分が初登場する作品でもある。

 ただし、ここでの茂七はあくまで脇役。本所七不思議にまつわる市井の人々の営みにスポットを当てている。

 本所七不思議とは、現代風に言うなら都市伝説の類である。時代物にしろ現代物にしろ、こうしたテーマの作品は難易度が高い。謎は謎のままだからこそ人々を捕えて離さない。しかし、小説である以上、どうしても読者の関心は謎の真偽に向いてしまう。読者に徳川埋蔵金伝説のような煮え切らない思いを抱かせることなく、謎のままに終わらせるのは至難の業。

 本作に収録の7編において、本所七不思議の謎の真偽に大きな意味はない。それでいて、しっかりと各編の中核を成している。僕にはこれ以上説明しようがない。実際に読んでもらうのが手っ取り早いだろう。

 謎は謎のままということで各編には触れないが(手抜きか)、全体的には哀しい作品集だ。すれ違いがあり、憎しみがあり、嫉妬がある。しかし、茂七親分が黒子に徹しつつ締めるところを締めて、決して救いのない結末にはなっていない。本所七不思議と同じく、深川の風景に溶け込みながら存在をアピールするあたり、実に憎い演出ではないか。少々反則気味ではあるが…ま、いいや。

 なお、本作および『幻色江戸ごよみ』、『初ものがたり』を元に一話完結で描く『茂七の事件簿・ふしぎ草紙』が、6/29よりNHK金曜時代劇で放映される予定である。宮部時代物のファンなら要チェックだ。茂七親分役の高橋英樹さんによれば、「とにかく人を斬らずにすむ役というのが嬉しい」とのこと。確かに、斬る役ばかりだったような…。



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