宮部みゆき 09 | ||
かまいたち |
宮部さんの初期の作品を集めた、時代物短編集である。
表題作「かまいたち」は、第12回歴史文学賞佳作受賞作品である。町医者の娘おようが、辻斬りの現場を目撃してしまうが…。今から思えば、宮部さんの時代物作品の中でも、ミステリー性に重点を置いた数少ない作品の一つであるような気がする。
わずか20pながら「師走の客」は面白い。旅籠(はたご)を営む質素な夫婦につい欲が芽生え…という話だが、この小品の中に喜怒哀楽のすべてがある。二転する落ちにはにやりとさせられる。それにしても、何とも気の長い話である。
後半の2編がやはり注目だろう。「迷い鳩」、「騒ぐ刀」は、後に「霊験お初捕物控」シリーズとして長編『震える岩』、『天狗風』に登場する、あの超能力者のお初が主人公である。お初の能力については、ここでは詳しくは述べないでおく。
「迷い鳩」は、宮部作品としては珍しく、トリックを使っているところが興味深い。しかも時代物作品で、である。犯行動機が現代社会に通じるものがあるのも注目だ。
「騒ぐ刀」は、怨念が込められた妖刀を巡る話。「坂内の小太郎」といい、時代物の枠を飛び越えてかなりエンターテイメントしている作品だが、このくらいの自由度があってもいい。『天狗風』と似ている気もするが。
4編中の2編が連作作品という構成は、いかにも中途半端である。なぜ、「霊験お初」シリーズのみでまとめなかったのか? 文庫版のあとがきによれば、初期の作品という点にこだわった結果なのだそうだ。「霊験お初」シリーズ2編の初稿が書かれたのは、何とデビュー前。自由な作品に仕上がっているのはそのためか。
まだまだ未発表の初期の作品が眠っていそうな気がするのだが、どうだろう?