宮部みゆき 16

震える岩

霊験お初捕物控

2001/02/02

 ちょっと乱暴な言い方だが、超能力ものと時代物は宮部作品の二本柱と言っていいだろう。その二本柱が合体したら、さてどうなるか。本作を始めとする「霊験お初捕物控」シリーズに、その答えがある。

 短編集『かまいたち』で初登場した超能力者のお初には、他人には見えないものが見える。『龍は眠る』の慎司のように。

 お初は、南町奉行の根岸肥前守鎮衛(ねぎしひぜんのかみやすもり)の命を受け、優男の古沢右京之介と共に、「死人憑き」を調べることになる。お初の能力を頼りに、謎に迫る二人。やがて、百年前の赤穂浪士討ち入りとの関連性が浮かび上がる。

 何度となく映画化、ドラマ化されている『忠臣蔵』だが、主君の仇討ちという美談として描かれているのはいずれも同じ。本作では、その『忠臣蔵』の宮部流新解釈が披露されるが…正直なところ、少々わかりにくいかな。画期的には違いないが。

 内容も凄惨気味だが、登場人物の魅力には触れておきたい。お初の兄である岡っ引きの六蔵。その女房で、お初と共に一膳飯屋「姉妹屋」を営むおよし。町方与力の嫡男とは思えぬ右京之介の成長過程にも注目だ。そして、根岸肥前守鎮衛の存在。

 根岸肥前守鎮衛は、不思議な話を書き集めるのを趣味としており、今回の事件を「奇石鳴動の事」と題して自らの随書「耳袋」に収録している。根岸肥前守鎮衛は実在の人物であり、「耳袋」なる随書も現存する。さらに、「奇石鳴動の事」なるエピソードは、驚いたことに実際に収録されているのである。

 いやはや、何とも大胆不敵と言うしかないモチーフの料理ぶりと、超能力者という主人公の設定。正統的な時代物から見れば、本作は邪道なのかもしれない。しかし、邪道でもいいじゃないか。この柔軟性こそ、宮部作品の持ち味なのだから。続編『天狗風』では、さらに柔軟性に磨きがかかっている。



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