宮部みゆき 18 | ||
地下街の雨 |
宮部さんとしては異色の作品が揃った短編集かな。文庫版裏表紙の紹介文によると、「どの作品も都会の片隅で夢を信じて生きる人たちを描く、愛と幻想のストーリー」だそうだが…これを書いたあなた、本文は読んだの?
表題作「地下街の雨」や「勝ち逃げ」といったいかにも宮部印の作品も悪くないが、僕としては他の作品に注目したい。『火車』ほど重厚ではないが、そこには現代社会の有様が色濃く反映されている。
「不文律」は、『理由』と構成が似ているが、こちらの方がより徹底している。全編が、〇〇の話「…」という具合に台詞のみ。まるでワイドショーだな、これ…。コメンテーターなる怪しげな肩書きの人間が最後を締めたらどうしようかと思った。事件に無責任な噂は付き物だが、いずれ記憶は風化していく。哀しいかな、これぞ現代社会だ。
「混線」のテーマは、ずばりいたずら電話。最近ではさらに手口が多様化していて、困ったものである。嫌がらせメール然り、ネット上の荒らし行為然り。しかし、憂さ晴らしも度が過ぎると…。実際、逮捕例もあるのだから。
「ムクロバラ」に登場する哀れな中年男性を、あなたは笑うことができるだろうか? 彼と同じ立場に追い込まれて、初めて痛感するのかもしれない。ごく普通の日常が、いかに幸せなのか。そして、いかに脆いのか。
「さよならキリハラさん」は、全体としては心温まる作品に仕上がっているが、核家族化が進む現代社会に一石を投じているのではないか? 一人暮らしの老人よりも、家族と同居している老人の方がはるかに自殺率が高いそうだ。読み流すことはできない。
宮部作品だけに堅くならずに読めるのだが、深い作品集だ。なお、文庫版解説は『チチンプイプイ』で対談している室井滋さんである。