宮部みゆき 34


R.P.G.


2001/08/26

 宮部さんにとって初の文庫書き下ろしで刊行された作品である。文庫化されるまで購入を控えるファンには朗報だろう。文庫書き下ろしという点も含めて、なかなかの意欲作であることはまず触れておきたい。

 第一に、インターネットというご本人に馴染みの薄い題材を取り上げたこと。大沢オフィスの公式サイト「大極宮」の「週刊大極宮」第1号によれば、宮部さんはインターネットをしていないそうである。現在でもしていないのだろうか? 一切しないまま本作を書き上げたとは思えないが。

 第二に、一幕劇になっていること。舞台はほぼ一貫して取調室の中。刑事と参考人たちの駆け引きが延々と続く。淡白にならずに緊迫感を持続させるところはさすがである。

 第三に…あまり詳しく書くわけにはいかないが、宮部作品としては前例がない趣向が凝らされている。うーむ、これだけでもわかる人にはわかるかな。あとがきを最初に読まないように。これはまずいでしょ、宮部さん。

 肝心の内容は、一言で述べるとネット上の擬似家族の「お父さん」が刺殺されるという話である。もちろん事件は現実の殺人事件であり、殺されたのは「お父さん」を演じていた人物だ。『模倣犯』の武上刑事と、『クロスファイア』の石津ちか子刑事が再登場して取り調べに当たるが、両作を読んでいなくても支障はない。

 税込500円という価格以上に十分楽しめる作品に仕上がっているが、ネットを題材にすることの難しさを改めて感じた。特に、負の一面を描く場合には。宮部さんの手腕をもってしても、どうしても薄っぺらな印象を受けてしまうのは致し方なしか。大作『模倣犯』の後だけに、余計に見劣りしてしまう。長さの問題ではない、念のため。

 それにしても、お膳立てをした人物の慧眼は大したのものである。



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