宮部みゆき 40

ICO

―霧の城―

2004/06/28

 宮部さんの待望の新刊は、同名のコンピュータゲームに触発された作品だという。作品世界のみを借りた、いわゆるノベライズ作品である。ノベライズという試み自体は宮部さんにとっても初めてだが、ゲーム的要素を含んだ作品は本作が初めてではない。

 記憶に新しい『ブレイブ・ストーリー』は、主人公自身が経験を積み、いくつもの関門を突破しながら成長していくというRPGそのものの作品だった。『天狗風』も、謎を解きつつ最後に大ボスと対決するという展開はゲーム的と言える。

 ところが、本作は上記の作品とは趣向が異なっている。ゲーム色が濃いのは確かだが、わくわくどきどきの冒険譚という色はむしろ薄い。「霧の城」というおあつらえ向きの舞台が用意されているにも関わらずである。

 このように書いてしまうと誤解を招きそうだが、宮部みゆきの看板に恥じない面白さは相変わらずであることは断っておこう。とはいえ、「霧の城」誕生に至る経緯が中盤を大きく占めるため、やや冗長な印象を受けたのも事実である。この部分は物語の生命線であり、端折るのが難しいのは理解できるのだが。

 注目すべきは、登場人物たちの内面描写だろうか。宮部作品ならではの、読者の価値観を揺るがす手法は今回も活きている。どちらが正義なのか。一見両者とも筋が通っているだけに、悩む主人公。しかし、選ぶべき道はやはり一つなのだ。

 宮部さんがノベライズしたいとまで思うくらいなのだから、オリジナルのゲームは傑作なのだろう。しかし、『ブレイブ・ストーリー』という優れたオリジナル・ストーリーが書けるのだから、ノベライズにこだわる必要はなかったんじゃないか、というのがゲームをしない人間の正直な感想かな。オリジナルをプレイした人の意見を聞いてみたい。

 ちなみに、本作を読んでもオリジナルの攻略ヒントにはならないそうである。その辺に気を遣って冒険色が薄くなったのかなあ。



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