宮部みゆき 60

泣き童子

三島屋変調百物語参之続

2013/07/07

 シリーズ第3作。ボリュームも読み応えもあった第1作『おそろし』、ボリュームはあったが割と楽しく読めた『あんじゅう』、そして第3作は、ボリュームは控え目だが、読み応えは重すぎず軽すぎず、バラエティに富んだ作品集と言える。

 「魂取(たまとり)の池」。行ってはならぬと厳しく戒められた池。その理由とは。こういう場所は現代でも聞くが、因果応報、そんなにうまくはいかないよねえ。しかし、そんな場所をわざわざおちかに教えるのは、親切なのかどうか…。

 「くりから御殿」。あるキーワードが、僕には他人事に思えない。長治郎のような心情は、同じ立場になってみなければわからない。今現在、同じような心情に苛まれる人々が、どれだけいるのか。しかし、お陸の心情も汲んでやらねば。

 表題作「泣き童子」。飛び込みの語り部に、番頭の八十助はいい顔をしない。しかし、生真面目なおちかは受けることにした。結果的に、八十助の懸念は当たっていたとだけ書いておきましょう。せっかく立ち直りつつあるのに…。

 「小雪舞う日の怪談語り」。いつもは三島屋で語り部を迎えるおちかが、逆に怪談語りの会に招待された。時期はなぜか師走。約120pで4つの怪談が語られるが、いずれも完成度が高く、ちょっとした胸がすく仕掛けもある。このシリーズは1編をこの程度で収めた方が、テンポがよかったような…というのは言ってはいけないか。

 本作の一押し「まぐる笛」。訛りを気にする語り部を笑わないようにと忠告されたおちかだが、その話は恐ろしくてちっとも笑えないのだった…。何より恐ろしいのが、退治する手段。彼は成り行き上見てしまうのだが、絶対トラウマになりそう…。

 最後を飾る「節気顔」。戻ってきた放蕩息子は、なぜか二十四節気には出かけていく。彼はある仕事を請け負っていた。話自体は面白くて独立しているが、おちかは気づいてしまう。あの話との繋がりに…。シリーズの新たな展開を予感させて、幕を閉じる。



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