森 博嗣 36 | ||
赤緑黒白 |
Red Green Black and White |
僕の中に天秤があるとする。左の皿には「これから盛り上がるさ」という楽観主義の重りが、右の皿には「期待しすぎちゃいけない」という悲観主義の重りが載っている。
S&Mシリーズを読み続けるうちに、最初は平衡を保っていた天秤は完全に左に傾いた。最後まで右に傾くことはなかった。一方、Vシリーズは…ふらふらと左右に揺れていた天秤が、最後に右に傾いた…といったところだろうか。
何となく読み続けたVシリーズの第10弾にして完結編である。完結編らしい趣向がないこともないが、基本はいつも通りの展開。何となく始まって、何となく終わり。S&Mシリーズ読了後のような感慨は何も湧かない。何も心に残らない。うまく言葉にできないが、これがVシリーズを読み終えた後の正直な気持ちである。
『赤緑黒白』という何じゃこりゃというタイトルは、僕がこのシリーズに抱いていた思いを絶妙に言い当てているように思える。『黒』でも『白』でもなくて『赤緑黒白』。0か1かの二値論理じゃなくて多値論理。無理矢理結論付けると、キャラクターに象徴されるこの曖昧さが、結局は性に合わなかった…のだろうか。
意地悪い見方をすれば、このシリーズの存在意義は、シリーズであることという一点に尽きるのではないか。シリーズ作品だから定期的に刊行する。固定ファンは必ず買ってくれる。一定の売上げが見込める。優良顧客をみすみす逃すものか。
ビジネスを度外視した読者の立場から言えば、シリーズ作品にこだわる必要はないと思う。『女王の百年密室』や『スカイ・クロラ』のような単独作品が優れているのはなぜか。一冊にすべてを注いでいるからだ。その場しのぎじゃないからだ。
優良顧客になり切れない僕は、いずれ始まる新シリーズといかに向き合うべきか。
と、上記のように書いてしまったものの…。
気付いている方も多いと思うが、実はVシリーズはS&Mシリーズと密接に繋がっていたとのこと。そんな発想はまったく浮かばなかった僕は、ネット検索していてやっと知った次第である。その説によれば、僕はある作品の感想で嘘を書いたことになるが…。
密接な繋がりとは具体的にどんなことか。まとめて書こうとも思ったのだが、自分で考えたわけでもない情報を掲載してしまうのも気が引けるので、書かないことにした。興味のある方は各自で検索していただけると幸いである。
だから何? というのが正直なところだ。でもこう書くと負け惜しみと思われるかもしれないな。そもそも、こんな文章を書いている時点で言い訳じみていて情けない。今までの感想はそのままにしておくので、どうぞ笑ってやっておくんなまし。