森 雅裕 17


マンハッタン英雄未満


2003/04/27

 森雅裕さんの著作リストを眺めていると、興味深い事実に気付く。初期の作品は、乱歩賞受賞作『モーツァルトは子守唄を歌わない』など芸術をテーマにした作品が多い。一方、近年の作品は時代物が多い。刀をテーマにしたノンフィクションまで刊行しており、今のところこれが最後の著作となっている。

 運良く古本屋で発見した本作は、乱暴に言ってしまえば芸術と時代物が合体したような作品だ。ルートヴィッヒ・ヴァン・ベートーヴェンと土方歳三。芸術にも歴史にも疎い人でも名前ぐらいは知っているであろう二人の、夢の(?)共演。

 ベートーヴェンといえば装丁はこの人しかいない。ご存知魔夜峰央。うむ、魔夜さんに土方歳三を描かせるとこうなるのか。バンコランじゃないか、こりゃ(パタリロネタ)。

 さて、何の接点もなさそうな二人の役割とは。彼らは悪魔の手に落ちた幼いメシアを救い出すべく、助っ人として現代のニューヨークに招聘されたのだ。この設定だけでも本作のぶっ飛びぶりがおわかりいただけるだろう。

 設定も何じゃこりゃだが、内容も何じゃこりゃだ。それでも読ませるのは、ベートーヴェンと土方のキャラクターに尽きる。現代に連れてこられても大して動じず、むしろ文明を享受する二人。ベートーヴェンは音楽を、土方は刀を武器に、一致団結して敵を討つ。二人の世話を焼くメシアの母親珠音(たまお)は、キャラの濃さに負けている。

 敵の最後が呆気ない気もするが、二人が元の時代に戻るシーンはしんみりしてしまう。僕は楽しく読めたが、正直評価は大きく分かれる作品だろう。ある程度森雅裕流のとんがった作風に免疫をつけてから読むべきか。

 21世紀を迎えて以降、森雅裕さんは作品を発表していない。相変わらず出版社との関係は険悪なのだろうか。『推理小説常習犯』の文庫化が作家活動再開のきっかけとなり、また多くの読者が興味を持ってくれることを願うのみだ。



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