乃南アサ 52


風の墓碑銘


2006/09/21

 乃南アサさんは、自分にとって新刊は必ず読むという作家ではないが、音道貴子刑事シリーズは読むことにしている。あ、『嗤う闇』は感想を書いていない…。それはともかく、シリーズ最新刊は『』以来の長編である。読むしかあるまい。

 『凍える牙』で初めてコンビを組んだ、音道貴子刑事と滝沢保刑事。滝沢は絵に描いたような男社会の人間にして、叩き上げのベテラン。それに対し、筋を通して一歩も引かない貴子。そんな二人が、捜査の過程で互いに認め合っていく…という作品だったはずだ。

 個人的に評価が低い『鎖』では、馬鹿刑事と組まされた貴子が窮地に陥る。貴子を救うべく奔走する滝沢たち捜査関係者。二人の絆は強まった…という作品だったはずだ。

 そして、本作『風の墓碑銘』において再びコンビを組む貴子と滝沢。さぞや息の合ったところを見せてくれるのかと思いきや…下手すると初対面のときより険悪じゃないかよおい。季節は真夏という設定だが、二人のやり取りは暑苦しいことこの上ない。本当に炎天下を這いずり回っているような気にさせられ、苦笑してしまう。

 東京・下町の家屋の解体現場から発見された、三体の白骨死体。家主である老人は認知症で、貴子と同僚の玉城が日参するものの何も引き出せない。手がかりが掴めない中、その老人が撲殺されてしまう。撲殺事件の捜査本部に投入された貴子の相方は…。

 あまりにも酷な真相と、真犯人の身勝手さに憤るものの、『凍える牙』と比べると展開はゆったりしており、起伏に乏しいのは否めない。しかし、実際の刑事捜査の現場とはこういうものなのだろう。たとえ無駄足に終わろうとも、地道に足を運び続けるのだ。

 本作の読みどころは、事件そのものより貴子と滝沢の名(?)コンビにある。ある個人的事情を抱えつつも、それを表に出すことを潔しとしない貴子。そんな貴子に窮屈さを覚える滝沢。だが、二人とも相方の力量は認めている。貴子の直感力と滝沢のベテランらしい老獪さが徐々に噛み合い、真相に肉薄していく。その過程を楽しみたい。



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