貫井徳郎 05


修羅の終わり


2000/05/25

 本作は、警察機構の闇を描いた貫井さん渾身の大作である。危険な香りが終始漂うが、読む者を束縛して離さない。

 本作の他に警察機構の闇に迫った作品としては、真保裕一さんの『密告』を読んだが、本作に登場する何人かの警察官の姿は『密告』とはまるで比較にならないほど徹底して陰惨だ。特に、公安刑事の描写には絶句させられる。

 もちろん、フィクションであるとは頭では理解している。ましてや、公安捜査の実態など警察機構の中でも極秘中の極秘であるから、想像に頼る部分が大きいはずだ。しかし、警察官の不祥事が巷を賑わせている御時世である。驚くべき言霊の前に、危うくフィクションとノンフィクションの境界が曖昧になってしまいそうだった。オーバーな言い方だと思われるかもしれないが、決して誇張ではない。

 テロリズムへの怒りを胸に秘め、意欲に燃える公安刑事、久我。欲望に任せるままに生きる悪徳刑事、鷲尾。新宿歌舞伎町の路上で目覚めたら、記憶喪失になっていた「僕」。本作は、彼ら三人の視点で描かれた物語が並行して進む。ラストに至り、修羅道をひた走る三人の物語は、どのように統合されるのか…。

 実は、本作にはいわゆる解決編がない。三つの物語がどのように絡み合うのか、作中で明らかになる部分もあれば、言及されていない部分もある。文庫版巻末の笠井潔氏による解説でも、残された謎のすべてを説明してはいない。貫井さんは、謎の解決を敢えて読者に委ねたということか?

 ということで、僕なりに考えた真相を記しておく。貫井さんの頭の中の真相と、どこまで一致しているかは甚だ心許ないが。未読の方はご遠慮願いたい。 

 本作に仕込まれた毒は、あまりにも危険だ。しかし、癖になりそうな毒でもある。



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