貫井徳郎 15


殺人症候群


2002/02/10

 私立探偵の原田、托鉢僧の武藤、肉体労働者の倉持という元警察官の三人と、リーダーである警視庁人事二課の環。『失踪症候群』、『誘拐症候群』と続いた彼ら特殊工作チームが活躍するシリーズの完結編である。その名も『殺人症候群』。

 環がリストアップした被害者には共通点があった。いずれも殺人を犯しながら、未成年であるか精神障害を理由に刑法上の刑に服さなかった者たちだった。そんな彼らがことごとく殺害されていた。背後にちらつく「職業殺人者」の影。

 『誘拐症候群』の読後感想に、「現代の必殺仕置人が鮮やかに悪を葬る!」という裏表紙の文句はどうにかならんのか、と僕は書いてしまったのだが、これは正真正銘必殺シリーズそのものだ。チームの今回の任務は、もちろん「職業殺人者」の捜索である。ところが、倉持だけは任務を降りるという…。

 復讐は悪なのか? 本作のテーマはその一点にある。愛する人を惨殺された遺族の前に、少年法あるいは精神障害が壁となって立ちはだかる例は、現実の社会でも枚挙にいとまがない。手厚い法の保護を受ける加害者と、容赦なく好奇の目を向けられる被害者の遺族。遺族を冷遇する法に代わり、無念を晴らす者がもしも存在したら?

 誤解のないよう言っておきたいが、本作は決して「職業殺人者」への賛歌ではない。読んでもらえばわかるように、殺人は殺人であって決して崇高な行為ではない。だが、「彼ら」の行為を悪と断言できない、内なる自分の存在を自覚しないわけにはいかない。もちろん本作は趣向を凝らしたエンターテイメントだが、読者自身が試される作品でもある。

 大きな社会的テーマを扱う一方で、環のチームの綻びを描いている点にも注目したい。環のチームが危ういバランスの下で成り立っているのは前作『誘拐症候群』からも明らか。あくまで筋を通す環。そんな環と袂を分かつ倉持。正しいのが前者なのは理屈ではわかる。だが、共感できるのは…。

 本作は是非シリーズ三部作セットで読んでほしいと思うが、前二作の文庫版を入手するのは骨が折れるだろう。本作は今なら平積みされている。さあ書店へ急げ!



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