貫井徳郎 10


転生


2003/02/24

 本作は貫井作品の中で唯一未読だったが、遂に待望の文庫化である。

 心臓移植手術を受けた大学生の和泉は、着々と健康を取り戻す一方で自分の趣味や嗜好の変化に戸惑う。移植された心臓は、ドナーの記憶を持っているのか?

 …という設定から真っ先に思い出すのが東野圭吾さんの『変身』である。脳移植を受けた青年がドナーの性格に支配されていく、という話だった。主人公の変化の凄みが『変身』の読みどころだと僕は思っているが、本作の読みどころはまったく違う。

 いわゆる臓器移植法が施行されたのが1997年10月。施行後初の脳死臓器移植が行われたのは1999年2月。当時の報道は記憶に新しい。そして、本作の初版刊行は同年6月のこと。その後続々と脳死臓器移植は実施されているが、議論が尽きることはない。

 デビュー作『慟哭』を始めとして、貫井さんは結末で驚かせる作品を数多く送り出してきた。僕の個人的な感覚だが、結末の意外性という点では本作がNo.1ではないだろうか。どこがどう意外なのか。困ったことに、それをネタに触れずに述べるのが難しい。

 ドナーの遺族と、レシピエントの接触はタブーとされている。はいそうですかと引き下がってしまっては物語にならないわけで、当然和泉はドナーを調べようとする。真のドナーは誰か? そこがメインの謎ではあるのだが、付随する謎がどんどん深まっていく。ここまで広げてしまって大丈夫かと心配になるほどである。

 失礼かもしれないのを承知で言えば、メインの謎より付随する謎の解決に本作の意外性があると僕は思う。心臓移植による記憶の転移という設定に、もちろん医学的疑問は残る。だが、決して奇をてらったわけではない。その他のすべての謎が動き出し、そして着地するために、この設定が必要不可欠であることは読めばわかる。

 これで読み尽くしてしまったので、新刊をお願いします貫井さん。



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