貫井徳郎 17


さよならの代わりに


2004/04/05

 貫井徳郎さんの作品を読んで、おやっと思ったのは四度目になる。

 一度目は『迷宮遡行』。二度目はアンソロジー『「ABC」殺人事件』に収録の吉祥院シリーズ「連鎖する数字」。三度目が『光と影の誘惑』に収録の「二十四羽の目撃者」。そして四度目が、本作『さよならの代わりに』だ。

 これらの作品に共通している点は、文体が軽妙なタッチに貫かれ、他の作品のような重厚な雰囲気がないことである。『迷宮遡行』については一概には言えない面があるが、ここでは置いておく。そんな中、本作には注目すべき試みがある。

 上記の作品はもちろん、全著作を通じても初のその試みとは何かを、ここで書くことはできない。画期的かといえばそうではない。重要なのは、本作が貫井作品であるということ。驚くと同時に、正直なところ戸惑いもした。

 分類するならミステリーには違いない。僕の中では、謎の要素さえあればミステリーだ。それをどのように料理するかは作家の裁量次第。本作に関して言えば、作中の殺人事件のトリックは「ある試み」とは無関係である。その点はあくまでフェアであろうとする姿勢が感じられて、安堵した。越えてはいけない一線は守られている。

 一方で、「ある試み」は間違いなく本作の生命線である。これなくしては、本作はただの青春ミステリーになってしまう。したがって、「ある試み」をどう受け止めるかで、必然的に本作の評価は大きく変わってくる。コアな本格ファンには不向きだろう。

 文体が軽妙とはいえ、哀しく切ない物語である。タイトルが意味するものは、全編を読み通して初めてわかる。このような結末もまた、一つの試みかもしれない。ここで言えるのは、読者の胸には衝撃ではなく余韻が残るということだ。

 作家として、作風を広げていくのは当然の姿勢だろう。だから僕は本作を評価する。



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