貫井徳郎 25 | ||
後悔と真実の色 |
捜査一課の刑事が登場する作品としては、デビュー作『慟哭』以来か。『修羅の終わり』にも警察官が登場したが、主人公は公安捜査員だった。貫井徳郎さん曰く、『慟哭』のような作品を読みたいという要望にようやく答えた作品だという。
指蒐集家≠名乗る殺人鬼による連続殺人によって、東京都下は恐怖のどん底に陥った。真犯人は殺した女性の右手の人差し指を持ち去っていた。挑発的なネットでの殺人予告。捜査陣を嘲うかのように凶行は繰り返され、糸口さえ掴めない。
何と貫井さんが本格的なシリアルキラーものに挑む。古今東西の先人たちが様々に知恵を絞ってきたジャンルだが、いやはやこの構図には驚かされた。エンターテイメントを意識したとはいえ、単なるパズラー(パズラーも好きだけど)にはなっていない。
事件の構図とともに興味深いのが、捜査一課を中心とした警視庁の面々の人物像である。それぞれに義憤を抱いているものの、刑事としてのスタンスには温度差がある。人当たりはいいが本心が読めない三井。飄々として熱意を感じさせない村越。何としても手柄を立てて、捜査一課への引き上げを願う機動捜査隊の綿引…。
そして主人公格の、捜査一課第9係の名探偵≠アと西條。仕事の熱心さは人一倍で、対立を厭わない。そんな西條だが、単純な熱血漢ではなく、歪みも感じさせる。やがて西條は、彼自身の性格により運命を翻弄されていくのだ。身から出た錆とはいえ、主人公をこのように転落させるとは。それでも西條には矜持が残っていた。
ラスト直前になってようやく明らかになった真犯人。薄々勘付いたという声も聞いたが、僕の山勘は外れ。なるほど、色々な点で筋が通っているではないか。不幸な過去のせいとはいえ、動機の面はやや安直か。それでも、彼のスイッチがこんな形で入ってしまったのは何という巡り合わせだろう。最後まで考え抜かれた緻密な構成に感服した。
と、満足したのにケチをつけて申し訳ないが、最後の2つの事件は必要だったのだろうか。特にあちらの事件は、まさかの展開に言葉を失った…。めげそうになりながら意地を貫き通した西條は、今後どのような人生を送るのだろう。