岡嶋二人 09


なんでも屋大蔵でございます


2007/03/29

 山本山コンビが活躍する『三度目ならばABC』、『とってもカルディア』の他に、登場人物が印象に残る岡嶋作品といえば、本作しかないだろう。

 タイトル通り、主人公はいわゆる便利屋の釘丸大蔵。お引越しのお手伝いから、留守中のペットの世話、雨漏りの修理まで何でも格安で承ります。そんな大蔵が便利屋稼業を通じて遭遇した事件を描く。タイトルで主人公が名乗っているのは珍しい。

 嫉妬もほどほどに、「浮気の合間に殺人を」。興信所の調査員が、顧客に渡した報告書を取り戻したい理由とは? 謎の設定が光る一編。人さらいならぬ猫さらい、「白雪姫がさらわれた」。たとえ悪気はなくてもいただけませんな。個人的に本作中の一押し。

 僕は誰でしょう、「パンク・ロックで阿波踊り」。若者が集うディスコ(って今は言わないか)に渦巻く陰謀とは。パラパラ(ってもう古いか)の次にブレイクするのはこれだ(嘘)。東野圭吾さんの某作を彷彿とさせる「尾行されて、殺されて」。大蔵さんじゃなくても思う。ばかばかしい。そうとでも思わなきゃやってられん。よくよく動物に縁があるらしい。

 最終話にして最も長い「そんなに急いでどこへ行く」。この物語が興味深い様相を呈してくるのは、容疑者とされる人物が登場してから。「尾行されて、殺されて」と同様に、罪と向き合うということを考えさせられる、深い一編ではないか。

 大蔵の軽妙な語り口が魅力ではあるのだが、美郷のひらめき(?)と貞夫の推理で事件を解決するという山本山シリーズの構成の妙には一歩譲ると思う。解説の宮部みゆきさん大推薦の作品集だが、僕個人の岡嶋作品中のランキングは高くない。

 それでも、シリーズ作品としての結末は実に心憎い。この結末は、基本的にシリーズ作品を好まなかった岡嶋二人の、きっちり終わらせ封印するという固い意志の表れのように感じられる。山本山シリーズは異例中の異例だったのだなあ。



岡嶋二人著作リストに戻る