岡嶋二人 18


殺人者志願


2007/01/12

 『コンピュータの熱い罠』や『99%の誘拐』などでも感じたことだが、岡嶋二人の作品はシンプルに徹しつつ予見的な要素を含んでいたと思う。現在社会問題化しているハイテク犯罪の数々を、いち早く取り入れていたのである。本作で起きた事件の背景もまた然り。

 本作の主人公である隆友と鳩子の若夫婦は、借金を重ねて首が回らなくなったという何とも呆れた設定だ。これもまた予見的と言えるかもしれない。消費者金融のCMでおなじみの「ご利用は計画的に」というフレーズを聞くといつも思う。計画的な人はそもそも借りないだろうが。「ストップ!借りすぎ」じゃない、「ストップ!貸しすぎ」だ。

 話が逸れたが、借金を肩代わりする条件として殺人を依頼されたとしたらどうだろう。背に腹は代えられないと引き受けた二人は、ターゲットの身辺調査に着手するが…。

 あのね、これっぽっちの金額で殺人を引き受けてしまうか? そして、プロを雇うほど金は出せないからって素人に依頼するか? 設定に無理があるよこりゃ。と、最初は思っていた。しかし、二人はあまりにも軽い気持ちで殺人を請け負ったこと、そして殺人という行為の重さを思い知らされることになる。そこが本作のポイント。

 引き受けた段階ではゲーム感覚で考えていた二人。知恵を絞った殺人計画に素人っぽさがにじみ出ていて苦笑する。渋谷の東急ハンズで道具を揃えるかよ。ところが、ターゲットに接触してその人となりを知れば知るほど動揺を隠せなくなる二人。そしていざ決行という日、悪い冗談としか言い様がない展開が待ち受けていたのだった。

 中盤以降のドタバタぶりが本作の大きな読みどころだが、二人が恐慌状態に陥るのとは裏腹に、何とも滑稽な印象を受ける。殺人をテーマにしながらコメディタッチなのが岡嶋二人らしいといえばらしい。依頼者がターゲットを殺したかった理由など、すべてがきっちり説明されるのはさすがだが、欲を言うならもっと大どんでん返しが読みたかった。

 それにしても、これって一件落着と言ってしまっていいのだろうか?



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