恩田 陸 09


ネバーランド


2005/05/07

 タイトルの『ネバーランド』とは、『ピーターパン』に出てくる「子供が永遠に子供でいられる場所」であることくらいは僕でも知っている。

 とある有名男子校の寮「松籟(しょうらい)館」。冬休みを迎えほとんどの生徒が帰省する中、居残りを決めた事情を抱える4人。舞台となる寮をネバーランドにたとえたらしいことは容易に察せられる。ファンタジックな物語が展開されるのかと思いきや…。

 本作は『木曜組曲』や『夜のピクニック』のような台詞主体の一幕劇である。殺人事件が起きるでもなく、「告白」ゲームをきっかけに4人の「秘密」が明らかになっていくのが読みどころなのだが…この「秘密」がとんでもないものばかり。

 中でもある一人の秘密は、昼ドラも真っ青のドロドロ愛憎劇。恩田先生、さすがに悪趣味が過ぎるのでは…。ところが、そんなネタを無理やりに(失礼)青春風味のさっぱり味に仕上げているのだ。恩田さんらしい料理法ではある。内容が重いんじゃないかと心配なあなた。べたっと…いやからっと揚げていますのでご心配なく。多分…。

 それはさて置き、決して親友同士とは言えない微妙なバランスを保っていた4人が、次第に打ち解けていくところは青春物の王道だろう。テニスで意地になるとか、酒を酌み交わすとか(この際堅いこと言わない)、他愛のない場面の数々に漂う青春の香り。こうした青春スパイスの絶妙な配合が、ドロドロをまろやかに変えているんだな、多分…。

 一男性読者の目から見て気になる点がある。恩田さんが男子校という舞台と男子生徒を美化して描いているため、正直やおいの雰囲気が…。あまりその方面を強調していないのが救いである。逆に男性作家が女子高を舞台にしたらやっぱり美化するだろうし。

 4人だけで過ごした時間と、育まれた友情。こういう人間関係こそ、大人になっても財産であり続けるのだろう。などと青春物らしい感想を述べてみたが…この作品が好きな方、すみません。自分にはどうしても苦笑いしかできませんでした。



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