恩田 陸 23


劫尽童女


2005/04/18

 …良くも悪くも恩田陸さんらしい作品ではある。

 『三月は深き紅の淵を』や『光の帝国―常野物語』は、物語を断片的に切り出して全体像を掴ませない作品だった。納得いかない面も正直あるものの、これらの作品はそんな手法が成功した例だろう。一方、本作は…失敗とまでは言わないが、同様の手法で効果が上がらなかった作品ではないだろうか。

 誤解のないように言っておきたいが、恩田さんは先に挙げた作品のような手法を本作に当てはめたわけではない。体裁としては普通の長編である。だが、結果的に全体像が掴めない作品になってしまっている。一言、書き込み不足だ。主人公の少女の背景がよくわからないまま、スケールだけがどんどん大きくなっていく。

 超能力を与えられた少女と、やはり特殊能力を持つ犬とのコンビが、秘密組織との戦いに身を投じていく…という絵に描いたようなSF的設定。僕は面白ければジャンルは問わないというスタンスなので、別に設定が悪いとは言わない。だが、向ける目は一段厳しくなる。少女の苦悩が伝わってこない。感情が揺さぶられない。だから物語に入れない。

 長すぎる作品も考えものだが、コンパクトにすればいいというものでもない。このページ数には物語が有するエネルギーを収め切れていないと思う。何ともったいないことか。もっとも、長くすればもっと面白かったのかは微妙なところだが…。

 文句ばっかり書いてしまったが、ラストシーンはなかなかに美しい。ここに至って少女は社会的なメッセージを読者に投げかける。ようやく見つけた生きる道。でも…また文句で申し訳ないが、やはりまとめ方が唐突な印象がするなあ。途中は何だったんだろうという気がしないでもない。ああ、感動するところだろうに、いかんな僕は。

 本作に限っては風呂敷を広げすぎたと思うが、そこが恩田陸という作家の魅力でもあるのだから、これからもどんどん勝負してください。え、僕に言われたくはない?



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