恩田 陸 45


中庭の出来事


2006/12/19

 僕は本格というジャンルに、謎解きだけでなくすっきりした読後感も求めているのだと思う。本作を読み終えて、最初に考えたのはそんなことだった…と、どこかで書いた気が。

 帯を読んだだけで悪い予感はしていた。序盤を読んでさらに悪い予感が強まった。堂々の恩田作品ワースト1『夏の名残りの薔薇』が頭をよぎった読者は僕だけではあるまい。幸いなことに最悪の事態は回避できたが、かなり手強い一冊であった。

 瀟洒なホテルの中庭。こぢんまりとしたパーティーの席上で、気鋭の脚本家が不可解な死を遂げた。周りにいたのは、次の芝居のヒロイン候補たち。

 今年は舞台をテーマにした興味深い作品『チョコレートコスモス』を発表している恩田さんだが、本作にも舞台が密接に関わってくる。これは現実なのか芝居なのか、内なのか外なのか。つまりは境界をぼやかして読者を幻惑させるという趣向である。

 驚いたことに、本作の初出は携帯向けサイトでの配信だった。連載(と言っていいのか)期間は約10ヵ月に及ぶ。どう考えても一気に読まないと理解が追いつかないだろう。僕のように遅読ではしんどい。ケータイで最後まで読んだ人は賞賛に値する。

 本作のうまいところというかずるいところは、内と外の境界を完全にぼやかしてはいない点にある。だから、おそらくこういうことなんだろうなあ、と自分なりに解釈することは可能だ。しかし、それが正解かを確認する術はない。真相は恩田陸さんの頭の中。

 境界をぼやかすという趣向自体は目新しくはない。同様の趣向を用いた傑作が存在することを僕は知っている(作品名は挙げられません)。その作品は、もっと徹底的にぼやかして終わっているのに、見事にやられた。その作品を基準にするのは酷というものだろう。小手先に走ったわけではないのだろうが、策士策に溺れたような感がある。

 結末に驚きたい方にはお薦めしないが、オーソドックスな本格を書かれても恩田陸らしくないわけで。ご自身のカラーを出そうという努力は買いたいと思う。



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