恩田 陸 22


図書室の海


2005/08/01

 文庫版の解説曰く、本作は恩田陸の予告編コレクションのような性格を持った本とか。いやあ、何て的確なんだろう。そもそも長編を予告編にしてしまったりして。オープニングの「春よ、こい」で軽いジャブを食らい、頭がくらくらしたところで以下順不同にご紹介。

 『六番目の小夜子』番外編という触れ込みの表題作「図書室の海」。登場するのは関根秋の姉、夏。この人たちはサヨコ伝説が好きだこと。単独で読んでももちろんわからないが、本編を読んでおけば味わい深い…に違いない。

 『麦の海に沈む果実』に登場する理瀬の幼年時代を描いた「睡蓮」。『夜のピクニック』の前日を描いた「ピクニックの準備」。本当に予告編だなこりゃ。

 予告編としての完成度は「イサオ・オサリヴァンを捜して」が高い。というかご自身が予告編として書いたと断言しているし。「近日ロードショー」なんですか? そして元祖『ハウルの動く城』として知る人ぞ知る(嘘)「オデュッセイア」。打倒スタジオジブリ。

 短編としてもミステリーとしても完成されている、本作中では珍しい一編「ある映画の記憶」。戦慄の職人魂。あの、半ば実話ってどういうことですか…。見方を変えれば、作中引用している小説・映画『青幻記』の予告編と言えるかもしれない。

 サスペンスタッチの「茶色の小壜」と「国境の南」は、恩田さん曰くシリーズになっているそうである。恩田作品には数少ない犯罪物だが、恩田さんらしさが凄みを出すことに成功した例だろう。想像が尽きない点もいい。『ユージニア』の布石か?

 「ノスタルジア」というタイトル通り甘酸っぱい内容ではないエンディング。ホラーのようなファンタジーのような、デビュー作を彷彿とさせる一編は、やはり予告編っぽいのだった。

 ファンブックのような作品集である。文庫になっている作品くらいは一通り読んでおいた方が楽しめるのは間違いないが、いきなり読むのも案外面白い…かな?



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