恩田 陸 60 | ||
私と踊って |
あとがきによれば、ノンシリーズの短編集としては『図書室の海』、『朝日のようにさわやかに』以来だという。本作は、両作品集の特徴を併せ持った作品集だ。
まずは大変説明に困る「心変わり」。恩田さんらしく、読者の想像力を刺激するミステリーです、はい。連作にする予定だったという「骰子の七の目」は、現実社会の動きに対する痛烈な皮肉ではないか。ひらがなだけで表記された読みにくい手紙の「忠告」とは。
演劇のワンシーンを切り取った「弁明」。元ネタ作品のことは忘れた。映像で見てみたい「少女界曼荼羅」。こんな世界に暮らすのは嫌だ。「協力」は、本作中では珍しい明確なオチに苦笑。すっかり騙された「思い違い」。常に何かを企むのが恩田陸。
得意の幻想譚「台北小夜曲」。現地に行けば、僕にもわかるのか。児童文学誌に書いたという「理由」を、子供たちはどう感じただろう? 今度は台南が舞台の「火星の運河」。もちろん幻想譚だが、こちらの方が理解できるかな。
現実の事件をネタにしていて笑えない「死者の季節」。実話だというから余計に笑えない…。「劇場を出て」は彼女主演で短編映画化したらどうだろう。テーマは天才、「二人でお茶を」。彼もまた選ばれた人間なのだろう。
「聖なる氾濫」「海の泡より生まれて」「茜さす」の3編は、大英博物館を扱ったNHKの番組に併せて刊行された本のために書かれた。恩田さんなら一冊分書くこともできただろう。表題作「私と踊って」は、「二人でお茶を」に似ている気がする。
残り2編は収録方法からして異例。「東京の日記」は横書きの日記形式で、巻末から読む。SFっぽいが、現実の社会情勢を連想させる。「交信」に至っては、こんな場所に収録するのは初めて見た。しかし、内容は収録場所ほどインパクトはないか。
ノンシリーズと言いつつ、実は対になる作品や共通の括りがある作品が多い。近年刊行ペースが落ちてきた恩田陸さんだが、面目躍如と言えるだろう。