恩田 陸 61 | ||
夜の底は柔らかな幻 |
上下巻で届けられた本作を敢えてジャンル分けするなら、SFになるだろうか。僕はどうしてもミステリーの部分に着目しがちだが、そういう読み方は得策ではない。壮大なSFファンタジーと捉えるべきである。久々に恩田陸の大風呂敷が爆発だっ!!!
本作の世界では、日本の中に国家権力が及ばない地「途鎖国」が存在するという。作中から察するに、その場所とは現実の日本でいう高知県、「土佐」らしい。途鎖国出身の有元実邦警部補は、凶悪犯を追い、故郷へ潜入しようとしていた。
序盤から「在色者」とか「イロ」とかいうキーワードが飛び交うが、途鎖国というのは在色者の割合が高い地だという。折しも、途鎖国は「闇月」の時期を迎えていた。禁忌とされる山に、物騒な連中に加え、強力な「在色者」たちが集う。ここに何が隠されているのか?
「在色者」とは要するに超能力者。ジャンプの歴代看板作品もびっくりなバトルには呆気に取られるしかないが、漫画的な発想を批判するつもりはまったくない。小説とは本来自由なものではなかったか。映像化には多額の予算がかかっても、文章で描く分には予算はゼロ。だからこそ、小説には無限の可能性があるはず。
強力な在色者といえども、容易に侵入を許さない山。彼らが山奥へと分け入るにつれて、過去に何があったのか徐々に明かされるが、一方で山に潜む謎はむしろ深まっていく。そして、主人公らしき実邦の存在感は薄くなっていくような…。それはともかく、僕は途中で決めていた。結末がどうこうではなく、作品世界に身を委ねよう。
最終決戦を前に、オールスターキャストが揃うのはお約束。これまでとは比較にならない血の雨が降るかと思いきや…うーむ、結局何が何だか。というか、こんなの手に負えるかっ!!! とりあえずすげえよ恩田陸。で、何それ、聞いていないんですけど…。
以前、『エンド・ゲーム』の感想に映画『マトリックス』を連想させると書いたが、本作こそ『マトリックス』的だ。しかし、恩田陸さんは『地獄の黙示録』をやろうと書き始めたのだという。謎の王国に潜入という設定は確かに『地獄の黙示録』的でもある。こちらのインタビューも読むと、創作意図がよくわかる。ただし、読後に読むのをお勧めする。
なお、本の話WEBによると、本作の構想の原点は『図書室の海』に収録の「イサオ・オサリヴァンを捜して」だという。 ということはいずれベトナム編も?